第26話 送り膳と空結び
町の弔いは、ひと月かかります。こちらのひと月は二十八日。そのあいだ家の者は、死んだ人のことを、毎日少しずつ思い出し続けます。
【町の弔い】
◆送り膳
葬いの日に、死んだ人がいちばん好きだった料理を一皿だけ作る。家族と集まった近所の者が、ひと口ずつ分けて食べる。ひとりで食べきってはいけない。その人の好きだった味を、大勢で少しずつ覚えておくためである。
港町では、送り膳の残りを千年鍋に入れる家もある。
◆縄ほどき
人が死ぬと、暦縄の結び目がひと晩でゆるむ。家の者はそのままにしておき、二十八日目の朝、ゆるんだ結び目をそっとほどく。ほどいた糸は捨てずに、家族それぞれの暦縄へ少しずつ綯い込む。こうして死んだ人の糸は、生きている者の縄の中で、もうしばらく家にとどまる。
二十八日目を待たずに結び目がひとりでにほどけてしまったら、誰かがその人を忘れはじめたしるしだとされる。家の者は慌てて名を呼び、送り膳をもう一度作る。
◆空結び
白木の箱しか帰ってこなかった家では、二十八日目に縄ほどきをしようとしても、結び目がほどけないことがある。ゆるんではいるのに、最後のひと巻きがどうしても抜けない。まるで糸の先を、どこか遠くで誰かが握っているように。
そういう家では、結び目はそのままにしておき、その隣に、何も結ばない輪をひとつ作る。これを空結びと呼ぶ。輪には、箱の小石を通す。
鎚の谷の鍛冶の家々には、空結びがいくつも並んだ古い暦縄がある。
ナギは兄の縄名を預かっていました。あの家の暦縄にも、空結びがひとつあります。小石は、ナギが毎朝指でなぞるので、少しずつ丸くなっていきます。
ほどけない結び目の糸の先を、誰が握っているのか。それは、次の話で。




