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第0話 序 見届け人より
はじめまして。そちらの世界の、どなたか。
私は、この世界で起きることをひとつ残らず見ている者です。戦場で縄が切られる音も、宮廷で銀の匙が置かれる音も、山奥の村で鍋が煮える音も、同じ夜に、同じだけ聞こえています。見て、聞いて、帳面に書き留める。それが私の役目です。
これから少しずつ、帳面の頁を書き写してお送りします。最初は、食べ物の話です。兵の荷袋に詰められたもの。路地の屋台や、宿の大鍋のこと。宮廷の、少し呆れるほど贅沢な皿のこと。それから、皿のまわりで語り継がれてきた話をひとつ。食べ物の話が済んだら、また別のものの話を。この世界には、書き留めておきたいものがまだたくさんあります。
今夜は、港の外れの坂道に傾いで建つ宿の、暖炉のそばを眺めながら書いています。暖炉には人が一人入れそうな大鍋がかかっていて、ことことと何かが煮えています。どんな味なのか、私は知りません。けれど、あの鍋がどれほど多くのものを覚えているかは、知っています。この鍋の話も、いずれ。
そちらの世界の味のことも、よければ頁の端に書いてください。帳面の頁は、もうそれほど多くは残っていません。急ぐつもりはありませんが、のんびりするつもりもありません。
では、最初の頁を開きましょう。
まずは、腹を空かせた兵たちの話から。




