第14話 結び初めのユイナと刻盗人のリオ
町の人たちの英雄は、国が決めた英雄ではありません。誰かが勝手に覚え、勝手に語り継いできた人たちです。
◆結び初めのユイナ
ずっと昔、村々が次々とほどけて消えていった年があった。ユイナという娘は、千の夜のあいだ一度も眠らず、村じゅうの者の名を、毎晩ひとりずつ縄に結び続けた。千一日目の朝、まわりの村がすべて消えたなかで、ユイナの村だけが残っていた。それが最初の暦縄だと言われる。今も結び初めの夜には、家族そろってユイナの名を一度だけ唱える。「千の夜」は、やり遂げることのたとえである。
◆歩き鍋のオルド
背中に大鍋を背負い、火を一度も絶やさないまま大陸を一周した料理人。通った町すべての味を鍋に足し、四十年かけて港へ戻ってきた。その鍋は、旅のあいだ一度もほどけなかったという。最初の千年鍋である。鍋そのものは失われたが、汁は港町の鍋に一滴ずつ分けられ、どの港の千年鍋にもオルドの汁が入っているとされる。旅人が宿に着くとまず千年鍋の年を聞くのは、オルドの鍋につながっているかを確かめるためだ。
◆刻盗人のリオ
都の下町の盗人。宮廷の蔵に忍び込み、金でも宝でもなく、時を盗んだ。宮廷の蔵には、時止めの術で止められた時間が溜め込まれている。リオはそれを盗み出し、下町で死にかけていた子どもたちに分け与えた。のちに捕らえられ、名前を消されたが、下町の子守歌の中で、今も誰かがその名を歌っている。「リオに分けてもらった」は、命拾いをしたときの言い回しである。
誰のことかわからない子守歌。あれが、リオの歌です。
名前を消された人の名を、なぜ子守歌が覚えていられるのか。それは、次の次にお話しします。
次は、宮廷の英雄の話を。宮廷の英雄は、名前の話でもあります。




