第17話 選り札と征竜丸
ここからは、薬の話をします。
薬の話は、言いかえれば「誰を先に生かすか」の話です。薬はいつも足りず、手当てをする手も足りません。だからどの層にも、順番を決めるための仕組みがあります。
その前に、理をひとつ。第一話で、月の光を吸った米が青白く光るとお話ししました。あれは飾りではありません。月の光には、ほどけを遅らせる力があります。こちらの世界の三つ目の理、月の留めです。干した飯が何か月ももつのも、傷ついた兵を月の下に寝かせるのも、同じ理によります。
【軍医の道具】
◆選り札
軍医が負傷兵の手首に結ぶ札。満月の光を三晩吸わせた糸で編まれていて、結ばれた者の命の残りに合わせて、色がひとりでに変わる。赤は「先に」、黄は「後に」、白は「手当て無用、自分で歩ける」。軍医は札の色だけを見て、手当ての順を決める。情けで順を入れ替えることは、軍の決まりで固く禁じられている。
札が黒くなったら、その兵はもう助からない。黒い札は手首から外し、兵の腰の縄に結び直す。縄はそうして、札ごと軍へ納められる。兵たちは黒い札を迎え札と呼ぶ。
◆月寝かせ
夜、深手の兵を天幕から出して、月の下に寝かせること。月の光が傷のほどけを遅らせるので、軍医の手が空くまでの時間を稼げる。闇の相の夜は月が出ないので、この手が使えない。古参兵は「闇の夜に深手を負うな」と言う。
◆征竜丸
飛竜の血を練りこんだ黒い丸薬。一粒飲むと、一晩だけ痛みを感じなくなる。消えるのは痛みだけで、傷が治るわけではない。それでも兵は、これを飲めば朝まで戦える。
戦が終わると、同じ丸薬が字だけ変えて「正竜丸」として町に並ぶ。腹痛にも歯痛にも効くので、どの家にも一瓶はある。ただし飲みすぎた者は、夢の中で竜になって空を飛ぶ癖が抜けなくなる。昼にもその夢を思い出して、ぼんやり空を見上げるようになる。軍を退いた古参兵に空ばかり見ている者が多いのは、そのためだ。
◆火虫の包帯
炎這いの幼虫を包帯の内側に入れ、傷に巻く。幼虫は腐りかけた肉だけを焼いて食べ、生きた肉には決して手をつけない。巻いて三日もすれば、傷はきれいになる。
若い軍医はこれを好んで使い、年寄りの軍医は嫌がる。年寄りに言わせれば、「虫に選ばせるのは、軍医の恥」だという。
選り札は、誰の情けにも左右されない札です。そのおかげで救われた命は、数えきれません。
けれど札が決められるのは、生きている者の順番だけです。黒くなった札が、縄といっしょにどこへ行くのか。それは、まだお話ししません。
次は、町の薬の話を。




