第23話 夢買いと香の枕
宮廷の人たちは、自分の夢をあまり見ません。見たい夢を、買ってくるからです。
【宮廷の夜】
◆夢買い
他人の夢を、鏡や着物や銀と引き換えに買い取ること。また、それを生業にする者。買い手が売り手の額に小さな手鏡を当て、短い詞を唱えると、その夢は鏡の中へ移る。買われた夢は売り手から消え、売り手は二度と同じ夢を見ることができない。
値は夢によって違う。空を飛ぶ夢、死んだ者に会う夢は高い。中でもいちばん高い値がつくのは、戦に出ている兵が見る故郷の夢である。宮廷に雇われた夢買いは、戦が長引くと陣から陣を回り、鏡の束を抱えて都へ帰ってくる。
◆香の枕
中に小さな香炉を仕込んだ陶の枕。焚く香の種類で、その夜に見る夢を選べる。花の香なら花の夢、潮の香なら海の夢。
いちばん高い香は、買い取った夢を鏡ごと焼いた灰から練られる。この香を焚いて眠ると、他人の見た夢を、その人の目で見ることができる。故郷の夢を焼いた香は、宮廷の奥方たちのあいだで帰り香と呼ばれ、珍重される。帰る故郷を持たない都生まれの者ほど、この香を好む。
◆大綯い堂の奥の香
大綯い堂のいちばん奥に、誰も入ったことのない部屋がある。その部屋の前では、毎晩欠かさず帰り香が焚かれている。香を運ぶのは詠み司の中でも位の高い者だけで、彼らは扉の前に香炉を置き、扉を三度叩いてから、振り返らずに戻ってくる。
誰のための香なのかは、詠み司たちも口にしない。
初代の王は死んでおらず、大綯い堂の奥で眠り続けている、という噂をお話ししました。人は、誰にも覚えられなくなるとほどけていきます。では、何百年も眠り続ける者は、何を覚えて、何を夢に見ているのでしょう。
毎晩焚かれる香の灰が、どこの陣の、誰の故郷だったのか。私はひとつ残らず、帳面に書いています。
次は、ひとりの夢番の話を。




