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黒百合の仮面

作者:翡翠
最新エピソード掲載日:2026/04/12
前世において世界最高の暗殺者として生きた女が、ヴェルナ王国の名門ノワール公爵家の令嬢、ヴィオレット・ド・ノワールとして転生した。前世の記憶と暗殺者としての全ての技術を持ったまま、彼女は公爵令嬢として十六年を生きている。

ノワール公爵家は数代前の王弟を祖とする名家であり、家訓は「常に清廉、潔白であれ」。どの腐敗貴族とも与せず、政治的中立を守り続けてきた。父エドワール公爵は温厚にして剛毅な当主であり、娘が完璧すぎることを内心で心配している。母イザベル夫人は社交的で明朗な女性であり、手のかからなすぎた娘の育て方を後悔している。二人ともヴィオレットを深く愛しているが、娘の本当の顔を見たことがない。

ヴィオレットの従者には、スラム街の戦闘部族出身の兄妹、カインとミアがいる。かつてヴィオレットに刃を向け、一瞬で組み伏せられたカインは以来主人に絶対の忠誠を誓い、妹のミアは戦闘メイドとして彼女に仕えている。二人は主人の本質を薄々感じながらも、それを問うことなく傍にいる。

ヴィオレットが通うヴェルナ王立貴族学園は、表向きは貴族子弟の教育機関だが、実態は王国の腐敗が次世代に引き継がれていく縮図だった。学内では第一王子オスカル派と第二王子レイン派が対立しており、ヴィオレットはどちらにも属さない中立の立場として「黒百合令嬢」の異名を持つ。同学年のレイン第二王子は聡明で野心的であり、学園内でヴィオレットが最も気を抜けない相手だ。一方、伯爵令嬢のアメリは天然の明朗さで仮面に臆せず話しかけてくる唯一の存在であり、ヴィオレットが唯一対処に詰まる相手でもある。

ヴェルナ王国の深部には、三百年の平和の陰で根を張った腐敗の構造があった。現王アルベルト三世は暗愚ではなく、むしろ見えすぎるがゆえに何もできない王だ。財政、騎士団、司法、そして王妃の実家まで、腐敗貴族の連合体である《黄金の枷》によって四方を囲まれている。王が唯一信頼できるのは、王家直轄の秘密機関である影廷のみだった。

王国の膿は深く、影廷は限界を迎えつつある。そしてリュカとの接触が、まもなく訪れようとしていた。
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