黒百合の仮面 登場人物設定資料集
作成時点:第十五話終了時点
ヴィオレット・ド・ノワール
年齢:16歳
学年:ヴェルナ王立貴族学園 三年次
所属:ノワール公爵家 長女 兼 影廷外部協力者《黒百合》
外見
黒髪、黒瞳。光の角度によって瞳が藍色を帯びる。白磁の肌。薄く引かれた唇。絹のような光沢を持つ髪質。立てば柳、歩けば水のような肢体。いかなる状況でも乱れが生じない。寝起きですら乱れたことがない。
前世
世界最高の暗殺者。名前を持たなかった。名を持つ暗殺者は死ぬ、が前世の鉄則だった。前世の最後に近い記憶が霧に包まれており、最後に殺した相手、最後の依頼の内容、死の理由が未解明。この霧と《黄金の枷》の核心にある一族の名前が、同じ場所にある感覚がある。
今世
前世の記憶と技術を全て持ったまま転生。転生直後から公爵令嬢として育てられた。前世の習慣が今世でも抜けきれていない。就寝時は意識の七割を覚醒させたまま眠る。入室時に出口、死角、武器になり得るものを数秒で確認する。会話中に相手の頸動脈を無意識に確認する。
技術
サイレントキリング。体術。武術。暗殺術。毒物学(調合、判別、希釈、解毒)。六ヶ国語習得済み。心理掌握。諜報技術。情報分析。
仮面
公爵令嬢としての仮面は完璧。所作、マナー、言動の全てが令嬢として申し分ない。社交界での異名は黒百合令嬢。影廷でのコードネームも《黒百合》であり、本人は両方が同じ名前であることに内心苦笑している。
内面の変化(第十五話時点)
転生当初は感情の概念が薄かった。第三話以降、砂糖の数が内面の重さを示す指標として機能し始める。第三話時点で一つ。第十五話時点で四つ。甘いものが好きであることを今世で初めて知った。アーモンドが好き。洋梨のタルトが美味しいと思った。誰かのために死ぬつもりで立つ人間を初めて目の前で見たことが、カインを拾う理由になった。大切なものが何かを少しずつわかってきている最中だと、自分で認識している。
課題
頼ることに慣れていない。第十五話で父に初めて意図的に頼った。泣き方がわからない。泣く理由がわかりすぎると泣き方がわからなくなると母に話した。
エドワール・ド・ノワール
年齢:48歳
立場:ノワール公爵家当主
外見
黒髪に白が混じり始めた精悍な顔立ち。娘と面影が似ているが、目元に温もりがある。
性格
温厚にして剛毅。声を荒げることがない。声を荒げる者はすでに負けている、が口癖。怒る時は静かに怒る。穏やかだが揺るがない。岩のような人間と貴族社会では評される。
政治的立場
《黄金の枷》からの懐柔、脅迫、縁談を全て穏やかかつ完璧に断り続けている。ルヴァン家からの接触は今年だけで五度、全て断った。ドレヴァン家の使者も断った。どの派閥にも属さず、清廉を守り続ける。
娘への視線
娘が完璧すぎることを心配している。砂糖の数を最初から把握していた。第三話時点では三つだった砂糖が第十五話で四つになったことに気づいている。砂糖の数が娘の背負っている重さだと見立てていた。娘の顔が以前より近くなったことを感じ取り、第十五話で自ら話しかけた。頼ることと迷惑をかけることは違うと伝えた。娘からルーベン商会の調査依頼を受けたことで、練習としての頼り方を娘が実行したことを、何かをこらえながら受け止めた。
王との関係
王から直接の伝言を娘経由で受け取った。余はまだ諦めていない。それを聞いて、そうか、と一言だけ言った。その二文字の意味は安堵とも覚悟とも悲しみとも取れる複合的なものだった。
人物評
貴族社会での評価は、説得も懐柔も通じないが敵対もしない最も扱いにくい男。王からの評価は、余に何も求めてこない唯一の人間。
イザベル・ド・ノワール
年齢:44歳
立場:ノワール公爵家当主夫人
外見
亜麻色の髪、青灰色の瞳。かつて社交界の花と呼ばれた美女。娘の黒髪黒瞳は父方の遺伝だが、気品は母譲りと社交界では言われている。
性格
明朗で社交的。感情表現が豊か。夫と真逆のタイプだが、だからこそ長年うまくいっている。帽子の選択をよく娘に相談する。
役割
公爵家の社交的な顔。どの派閥にも友人を持ちながら、どの派閥にも借りを作っていない。夫の岩としての強さを、水としての柔軟さで補ってきた。
娘への視線
手のかからない娘だったことを当初喜んでいたが、後に泣かない子と泣けない子は違うのではないかと思い始めた。育て方を間違えたかもしれないという後悔を持ち続けていた。娘の植物標本の棚を見て、これは趣味ではなく目的のある研究だと一ページで判断した。その後スノードロップを持って娘の部屋を訪ねた。第十三話で娘の隣に娘が自ら座ってきたことで、ある意味で答えを受け取った。話したいと思う日が来るまでここにいると伝えた。
娘についての気づき
赤ちゃんの頃の娘の目を覚えている。ちゃんとそこにいる目だった、と形容した。最近その目が戻ってきたと感じている。
カイン
年齢:19歳(ヴィオレットより三つ上)
立場:ノワール公爵家 ヴィオレットの従僕
外見
褐色の肌、銀色の瞳。体躯に傷跡が複数ある。精悍な顔立ち。
出自
王国南東の山岳地帯に暮らす戦闘部族の出身。部族は五年前に内部分裂と商人への売買により滅亡した。カインは当時十四歳で、ミアを連れて逃げた。スラム街で二年間生き延びた後、ヴィオレットに拾われた。
ミアとの関係
実の兄妹ではない。部族の慣習で、十歳のカインが両親を失ったミアを引き取った。それ以来兄妹として生きている。ミアを守ることを最優先としている。
ヴィオレットとの出会い
スラム街でヴィオレットに刃を向けた。次の瞬間地面にいた。ヴィオレットの目の中に、自分という人間をちゃんと見ている目を感じた。それまでスラム街で誰にもそういう目を向けられたことがなかった。迷わず生きることを選んだ。
忠誠の性質
主人への忠誠は義務や敗北由来ではない。命を預けると自分で決めた相手への、個人的な誓いに近い。聞かないことが最大の配慮だと理解しており、主人が話すまで待つことを選んでいる。
能力
戦闘部族出身の体術。生存技術。諜報的な聞き込み(第十五話でルーベン商会を調査)。御者としての技術。尾行、追跡。
現在の懸案
部族を売った商人とルーベン商会の繋がりの可能性が浮上している。ヴィオレットからいつか調べると言われている。ミアに部族滅亡の詳細を話していない。
ミア
年齢:15歳(ヴィオレットより一つ下)
立場:ノワール公爵家 ヴィオレットの戦闘メイド
外見
カインと同じ褐色の肌、金色の瞳。身のこなしは野生の猫に近い。
出自
カインと同じ部族出身。実の兄妹ではないが兄妹として育てられた。部族滅亡の詳細はカインから聞いていない。
性格
直情径行。感じたことをそのまま口にする。空気を読む能力は育ってきているが、読んだ結果として発言をこらえることが難しい。
ヴィオレットへの敬愛
深い。しかし表現が過剰になることがある。主人が危ない仕事をしていると感じて泣いたことがある。第八話でカインがそれを知ってヴィオレットに伝えた。第十五話でヴィオレットから話せることが増えたら一番に話すと約束された。
能力
戦闘メイドとしての実技は本物。ただし令嬢の従者としての礼儀作法は習得中。手袋を裏返したまま来ることがある。
観察眼
育ってきている。フォルタン子爵を視線が気持ち悪いと表現した。言語化は大雑把だが感じ取るものは正確。
癖
何かを考えている時に剣の手入れをする。カインはそれで妹の内面状態を把握している。
リュカ・ヴェルサ
年齢:三十代半ばに見えるが年齢不詳
立場:影廷統括。影の宰相。
外見
年齢の判断を難しくする種類の整い方をした顔立ち。暗い色の外出着を好む。どの距離から見ても印象が変わらない。それが訓練の証拠だとヴィオレットは判断している。
素性
王家直属の影。貴族でも平民でもない。この王国で最も多くの秘密を知っている可能性がある人間。本名かどうかもわからない。
影廷での役割
影廷の実質的なトップ。王国の腐敗排除を三百年続けてきた組織の統括として、トカゲの尻尾切りの限界に直面している。《黄金の枷》の核心に関する情報を十年間個人で収集してきた。
ヴィオレットとの関係
影廷三百年の歴史で初めて、正面玄関から名刺をもって接触した相手。接触の際の判断は、名刺が最も安全な方法だったから。毎回の会談で帰り際に一つ質問をする習慣がある。嘘をつかないことを選んでいる。計算はあるが本心もある。子供たちのことを急いでいる、という言葉だけは計算ではなく本心から出た。
ヴィオレットへの評価
影廷が必要としていたのは実力だけではなく判断力と自制心だと明言した。十年間個人で集めた《枷》の核心情報をヴィオレットにだけ見せた。理由は彼女だけがその情報を受け取った上で適切に動ける可能性があるから。信頼と計算の両方だと自分で認めた。
内部問題
影廷内部にセダンという内通者の疑いがある工作員が存在する。セダンはフォルタン子爵の内偵担当だったが、ルーベン商会との個人的な繋がりが発覚した。ヴィオレットの指示でフォルタン子爵担当から外した。セダンが最初から潜り込ませた人間である可能性をヴィオレットから指摘され、影廷の採用過程への不信が生まれ始めている。
アルベルト三世
年齢:五十代半ば
立場:ヴェルナ王国国王
外見
金色の髪に白が混じる。細身の体格。肖像画より実物の方が老けて見えるが、目が生きている。
性格
暗愚ではない。見えすぎるがゆえに動けない王。自分の置かれた状況を正確に把握している。誰が敵で誰が味方かを見分け続けてきた人間の目を持つ。
現状
《黄金の枷》によって四方を包囲されている。王妃すら腐敗貴族の血筋。信頼できるのは影廷のみだが、影廷内部にも腐敗の疑いがある。余が剣を抜けば翌朝には王妃の茶に何かが混じる、が自己分析。
ヴィオレットへの評価
第十二話で非公式の謁見を行った。見えすぎる目をしていると評した。エドワール公爵への伝言を娘経由で預けた。影廷を通じれば情報が漏れる可能性があることを理解した上での行動。まだ諦めていない、という言葉に行動の意思が含まれている可能性がある。
娘セリアへの姿勢
表向きは描写なし。影廷がセリアを保護対象としてマークしているのは王の意向とは別の動きと思われる。
セリア・ヴェルナ
年齢:15歳前後(推定)
立場:第一王女
外見
金色の髪を簡素に結い上げる。目立たない淡い色のドレスを好む。宝石の類をつけない。父王と同じ面影を持つ。
性格
賢いが賢さを隠している。隠すことを選んでいる。護衛を連れずに一人で行動することがある。侍女には書庫に行くと言って植物学会に来た。直接的な感情表現ができる。
ヴィオレットへの印象
第九話の植物学会で初対面。令嵜がここに来た理由が植物学だけではないと感じ取った。話せる相手だと判断した時の笑い方をした。
《枷》からの評価
価値なし。しかし放置すると危険かもしれない。影廷はセリアを保護対象として密かにマークしている。
孤独
王女という立場で護衛がいると話す人間の言葉が変わる。だから一人になりたい。本音が聞きたい。そういう孤独を抱えている。ヴィオレットとの会話で、この王国が壊れることへの怖さを話した。
アメリ・ド・ソレイユ
年齢:16歳
立場:ソレイユ伯爵令嬢。ヴェルナ王立貴族学園三年次
外見
栗色の巻き毛、緑の瞳。愛嬌のある顔立ち。表情が豊か。
性格
明朗、お人好し、空気が読めない良い意味で。感じたことをそのまま言う。しかしその直感は正確なことが多い。
ヴィオレットとの関係
黒百合令嬢に臆せず話しかけてきた唯一の同年代。ヴィオレットが対処に詰まる唯一の相手。一緒にいることを純粋に喜ぶ。ヴィオレットが笑いかけた瞬間を見て、また見たいと言った。
観察眼
言語化は大雑把だが感じ取るものは正確。フォルタン子爵を視線が気持ち悪いと形容した。ヴィオレットが遠くを見ている目をすると感じ取った。
母親
ソレイユ伯爵夫人。菓子作りが上手。洋梨タルト、クッキーをヴィオレットに提供している。イザベル夫人と友人関係にある。
レイン・ヴェルナ
年齢:16歳
立場:第二王子。ヴェルナ王立貴族学園三年次
外見
赤みがかった茶髪、金色の瞳。整った顔立ち。目の奥だけが年齢に見合わない鋭さを持つ。
性格
聡明で野心的。本心と計算が区別できないほど混ざり合っている。それが強さでもある。場が変われば人も変わる切り替えが速い。
《枷》との関係
《枷》の意図を薄々知りながら、利用している。《枷》からの評価は切れすぎる刃、使えるが油断ならない。
ヴィオレットへの姿勢
学園内で最も気を抜けない相手とヴィオレットは評価している。正面から探りを入れてくる。ノワール令嬢と話すことが楽しいと感じている様子がある。中立と言うが最も高く売れる側を待っているのでは、と言ったことに対し、殿下はご自分のことをおっしゃっているのでは、と返されて初めて声を出して笑った。
オスカル・ヴェルナ
年齢:17歳
立場:第一王子。ヴェルナ王立貴族学園四年次
外見
母親似の金髪、青い瞳。柔和な顔立ち。
性格
温厚、誠実、しかし優柔不断。善意が本物。悪人ではないが強くもない。父王に似た部分がある。
《枷》からの評価
操りやすい後継者候補。
ヴィオレットとの関係
純粋な好意を持っている。それがゆえにヴィオレットが最も気を使う相手。ドレヴァン家の晩餐会で薬物を含んだ空気と料理に緩められていくのをヴィオレットが察知し、政治学の話題に誘導して保護した。本人は気づいていない。
フォルタン子爵
年齢:47歳
立場:貴族院下位議員
外見
五十に近いが清潔感のある身なり。愛想の良い紳士に見える。
実態
スラム街の子供を売買する組織と繋がっている疑いがある。植物学に本物の趣味を持つが、実用面での知識もある。ベラドンナの希釈用量に特別な関心を示した。ルーベン商会との繋がりが疑われる。
ヴィオレットへの関心
茶会での植物学の会話をきっかけに、植物学会でも接触した。その後自ら私的な勉強会へ招待状を送ってきた。予定より早い招待だったため、何かを急いでいる可能性がある。
セダン
立場:影廷工作員。コードネームのみ判明。本名不明
疑惑
フォルタン子爵の内偵担当として半年間活動したが、茶会での紙片のやり取りを報告書に記載しなかった。ルーベン商会への個人的な出入りが担当を外れた後も継続している。影廷加入前からルーベン商会との繋がりがある可能性。
ヴィオレットの見立て
セダンが外部から引き込まれた人間ではなく、最初から潜り込ませた人間である可能性を指摘した。影廷の採用過程に外部の介入があった可能性。現在フォルタン子爵担当から外されており、リュカが個人的に動向を監視中。
ベルナール・ドレヴァン
年齢:22歳
立場:ドレヴァン侯爵の嫡男。貴族院で研鑽中
外見
金髪を丁寧に整えた、愛想のいい男。
役割
《黄金の枷》第一門閥の次世代。晩餐会でヴィオレットに接触した。薬物を含んだ晩餐会の設計を知っていた立場にある。秘書官と称した交渉役グレンを公爵家に送り込んだ。
ヴィオレットへの狙い
公爵家の取り込みを段階的に試みている。晩餐会での接触が一手目、グレンの使者が二手目。三手目は令嬢の単独を狙ってくる可能性が高い。
グレン・サルバ
立場:ドレヴァン侯爵の秘書官と称しているが実態は交渉役
特徴
作法が正確。断られた後の立て直しが速い。秘書官ではなく交渉訓練を受けた人間だとヴィオレットが即座に判断した。帰宅途中にルーベン商会に立ち寄ったことをカインが確認した。
世界設定補足
ヴェルナ王国
建国三百年。表は繁栄する貴族制君主国家。裏に《黄金の枷》と影廷の二つの影の組織が存在する。
影廷 通称《書庫》
王家直轄の秘密機関。コードネームは《影の宰相》がトップ。建国期に創設。三百年間腐敗排除を続けてきたが、根を断てずにいる。内部に腐敗の疑いがある。
《黄金の枷》
腐敗貴族の連合体。第一門閥ドレヴァン侯爵家(財政掌握)、第二門閥サーシェン伯爵家(騎士団影響力)、第三門閥ルヴァン公爵家(司法貴族院掌握)、第四門閥カスタール侯爵家(王妃の実家)で構成される。その背後に建国初期にまで遡る一族の存在が示唆されている。
ルーベン商会
王都北区の香料薬草卸売商会。七年前に経営者が変わり急成長した。新経営者は王国南東出身。カインの部族を売った商人との繋がりの可能性がある。フォルタン子爵、セダン、ドレヴァン家のグレンが出入りしていることが確認されている。
ノワール公爵家
数代前の王弟を祖とする名家。家訓は常に清廉、潔白であれ。政治的中立を守り続けている。《黄金の枷》が手を出せない数少ない家の一つ。動けば孤立する、動かなければ傍観者になる、という板挟みの中で清廉を選択し続けてきた。




