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未来を知る者ではありません――戦国の世で居場所を得るまで

作者:佐倉暴威
最新エピソード掲載日:2026/08/27
大学受験をやり直している十九歳の高瀬悠人は、雷雨の夜、現代の富士市から今川義元が討たれた直後の駿河へ迷い込む。

自転車、スマートフォン、家の鍵。現代の品は持ってきた。けれど、電池も替えの部品もなく、すべて使えば失われる有限の品でしかない。

目の前に広がるのは、悠人が知る時代劇とも教科書とも違う戦国の世だった。田んぼは田んぼに見えず、村は村に見えない。身分も保証人も所属も答えらない。同じ日本語のはずなのに、拾えるのは単語だけ。少し言葉に慣れても、場所や人が変わればまた分からなくなる。

頼りになるはずの未来知識も曖昧だった。

「今川義元」「織田信長」「桶狭間の戦い」

現代では誰もが知る名前が、当時の人々には無礼で不自然な呼び方として響く。悠人が知っているのは、後世に整理された勝敗と有名人だけ。事件が起きた正確な日も、場所も、その場で生きる人々の事情も知らない。

そんな悠人を、今川家当主・今川氏真は一人の若者として扱う。

後世では「国を失った無能な大名」と評される氏真。しかし実際の彼は、人の話を聞き、弱い者を処罰の材料にせず、家族や旧臣の生活を自らの責任として背負う人物だった。悠人は氏真に恩を感じ、やがて主従だけではない信頼を結んでいく。

悠人は歴史を知っている。

家康が最後まで生き残り、徳川の世が訪れることも。

それでも、未来を知っているだけでは、今を生きる人の心までは決められない。

これは、現代知識で戦国を無双する物語ではない。
むしろ、そんな都合良くいくはずがないだろうという話である。
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