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雨音のアラベスク

作者:恋綴みるる
最終エピソード掲載日:2026/06/28
雨の日は、少しだけ過去に近づく。
古い商店街の外れに佇む喫茶店兼古書店――胡蝶雲憩。木の香りが染みついた店内には、天井まで届く本棚と、一台のアップライトピアノ、そして古びたバイオリンが置かれている。
ある雨の日。
駆け出しの小説家、莉瀬ゆらはいつものように胡蝶雲憩を訪れる。
かつて将来を期待されたピアニストだった彼女は、あるコンクールで優勝した日を境にピアノを弾くことをやめていた。
誰かを打ち負かして手にした賞賛が、どうしても美しいものだと思えなかったからだ。
その日、店にひとりの青年が現れる。
古本屋を営む薪原詩音。
穏やかな笑顔を浮かべる彼もまた、かつては将来を嘱望されたバイオリニストだった。
だが今は演奏の世界を離れ、本に囲まれた静かな暮らしを選んでいる。
二人は本の話をし、音楽の話を避け、雨の日ごとに少しずつ言葉を重ねていく。
好きな作家。
忘れられない一節。
読み終えた本を閉じたあとの寂しさ。
誰にも言えなかった後悔。
やがて互いが抱える「音楽を捨てた理由」を知った時、二人は気づく。
自分たちは音楽を嫌いになったのではなく、あまりにも愛しすぎていたのだと。
小説を書くことで過去を遠ざけようとしたゆら。
本を売ることで未練に蓋をした詩音。
そんな二人を見守るように、胡蝶雲憩では今日もクラシック音楽が流れている。
胡蝶雲憩
2026/06/09 19:05
雨音と古書の薫り
2026/06/10 18:50
アルペジオの栞
2026/06/11 18:16
刻の雨宿り
2026/06/12 07:00
着物姿の雅人
2026/06/12 19:52
世界の欠片
2026/06/13 07:00
閉じられた蓋
2026/06/14 07:00
紫陽花の読書会
2026/06/14 19:12
月夜猫
2026/06/15 17:33
星埜堂
2026/06/16 07:00
いと貴し、夏椿
2026/06/17 15:52
音の宛先
2026/06/18 21:53
鈴蘭の枝折
2026/06/21 09:38
恋の名前
2026/06/21 09:39
追憶
2026/06/21 09:39
プレリュード
2026/06/22 20:17
恋をしない人
2026/06/22 20:17
才能の値段
2026/06/25 20:02
売らない本
2026/06/25 20:02
あの子のために
2026/06/25 20:02
雨垂れ猫を穿つ
2026/06/26 10:50
2026/06/28 00:28
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