夫が浮気の口実にした私の病弱は、本日をもって完治いたしました
最新エピソード掲載日:2026/09/06
白い結婚、三年目。伯爵夫人レオニーは、六歳の熱以来「病弱」と決められ、妹オーロールの輝きの陰で「動かない娘」として育った。塩商いで財を成した実家は、妹の社交界入りの前に姉を片づけるため、莫大な持参金を付けて伯爵フェリクスへ嫁がせた。夫は世間に「妻は病床にある」と触れ回り、献身的な夫の顔で慈善に励み、その足で未亡人の家へ通う。皆が、彼女が死ぬのを待っていた。
三年目の夜、彼女は初めて、階段を一段だけ下りてみた。死ななかった。庭まで歩いた。生垣の向こうで、眠れない隣の子爵ガスパールが、難産の牝馬と格闘していた。「手を貸してくれ」――誰にも頼まれたことのない言葉だった。
夜ごと歩き、馬を引き、鞍に上がるうち、脚は太くなり、掌に皮が張る。そして彼女は、夫の書庫で一つの条文を見つける。三年成就しない婚姻は妻の申立てで無効となり、持参金は妻本人へ戻る、と。
療養地への追放が決まった朝、枕の上に一枚の紙を残して、彼女は馬で出ていく。「本日をもって完治いたしましたので、退院いたします」。夫が三年間、慈善の年次報告書に印刷し続けた「寝室を離れられぬ妻」の言葉が、そのまま白い結婚の証拠になった。
復讐はしない。病人だったことにされた女が、自分の脚で立つまで。
三年目の夜、彼女は初めて、階段を一段だけ下りてみた。死ななかった。庭まで歩いた。生垣の向こうで、眠れない隣の子爵ガスパールが、難産の牝馬と格闘していた。「手を貸してくれ」――誰にも頼まれたことのない言葉だった。
夜ごと歩き、馬を引き、鞍に上がるうち、脚は太くなり、掌に皮が張る。そして彼女は、夫の書庫で一つの条文を見つける。三年成就しない婚姻は妻の申立てで無効となり、持参金は妻本人へ戻る、と。
療養地への追放が決まった朝、枕の上に一枚の紙を残して、彼女は馬で出ていく。「本日をもって完治いたしましたので、退院いたします」。夫が三年間、慈善の年次報告書に印刷し続けた「寝室を離れられぬ妻」の言葉が、そのまま白い結婚の証拠になった。
復讐はしない。病人だったことにされた女が、自分の脚で立つまで。
第1話 三年目の五分間
2026/09/02 14:10
第2話 十四段
2026/09/02 16:30
(改)
第3話 生垣の向こうの灯り
2026/09/02 20:30
第4話 床の下で、順調に死ぬ
2026/09/02 22:30
第5話 手を貸してくれ
2026/09/03 00:30
第6話 虚弱、ですな
2026/09/03 07:30
(改)
第7話 昼のことは訊かない
2026/09/03 11:30
第8話 泥の裾
2026/09/03 13:30
第9話 幕間・眠れない男(ガスパール視点)
2026/09/03 16:30
第10話 柔らかい手
2026/09/03 20:30
第11話 鞍
2026/09/03 22:30
第12話 療養地
2026/09/04 00:30
(改)
第13話 鍵
2026/09/04 07:30
第14話 書庫の条文
2026/09/04 11:30
第15話 妹の舞踏会
2026/09/04 13:30
第16話 出ます
2026/09/04 16:30
第17話 退院通知
2026/09/04 20:30
第18話 王都婚姻監督院
2026/09/04 22:30
第19話 幕間・何もしなかった男(フェリクス視点)
2026/09/05 00:30
第20話 実家
2026/09/05 07:30
第21話 印刷された寝室
2026/09/05 11:30
第22話 幕間・昼に出る男(ガスパール視点)
2026/09/05 13:30
第23話 立会人、隣家
2026/09/05 16:30
(改)
第24話 待つ女
2026/09/05 20:30
第25話 歩く女
2026/09/05 22:30
第26話 病弱令嬢乗馬会
2026/09/06 00:30
第27話 幕間・献身的な嘘つき(フェリクス視点)
2026/09/06 07:30