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白い結婚を解消したら、旦那様の泊まる宿が無くなりました

作者:一之瀬すみれ
最新エピソード掲載日:2026/08/29
「白い結婚を、解消しようと思う。君には感謝している」

 夫にそう言われたとき、わたくしは暖炉の薪を数えておりました。

 政略で嫁いで三年。指の先も触れられないまま、帳面と厨と人繰りを任されてきたイレーヌは、離婚に逆らわず「わかりました」と答えます。ただ一つ、婚姻契約の第九条にもとづき、持参財の返還だけを求めました。

 ——借金のかたに取られた、実家の宿。

 銀の梯子亭。西街道で、峠を越える前に泊まれる、たった一軒の宿。

 イレーヌは宿の主に戻り、彼女を切り捨てた人々は、旅のたびにその敷居をまたぎます。伯爵家の商隊も。夫の想い人も。婚礼の客も。

 婚礼の前夜、雪の中を訪ねてきた旦那様に、イレーヌは宿帳を閉じて申し上げます。

 「あいにく、旦那様の泊まるお部屋は、ございません」

 声を荒らげず、仕返しもせず、ただ宿を開けているだけ。それだけで、切り捨てた側が勝手に困っていく——丁寧なまま勝つ、街道の宿屋のお話です。

※第1部(全20話)完結済み。第2部は全話書き上げ済み・毎日更新。ハッピーエンド。恋愛はゆっくりめで、主役は「留飲」です。静かなスカッとがお好きな方へ。
第5話 第九条
2026/07/31 21:00
第8話 父の帳面
2026/08/02 18:00
第17話 検分
2026/08/11 18:00
第19話 もう遅い
2026/08/13 18:00
第22話 規式
2026/08/25 18:00
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