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離婚されたら、侯爵家の誰も靴が履けなくなりました

作者:三上あゆみ
最終エピソード掲載日:2026/08/16
「離縁したい」

 旦那様がそう言ったとき、わたくしはその人の靴の踵を見ていた。
 右の踵が、外へ二分。左が、内へ一分半。三月前に測ったときは、逆だった。
 別の階段を、別の速さで、毎晩降りている。そういう減り方だった。

 六年間、わたくしはヴェルデン侯爵家の全員の足を測り、木型を彫ってきた。
 夫の。義父の。義母の。義妹の。ぜんぶ、無署名で。

 だから出ていくとき、一つだけお願いした。
「木型はお返しいただけますか。あれは、わたくしの道具ですので」
 お義父様は「木の塊だろう」と笑って、許してくださった。

 ——その週末が、夏の舞踏会だった。

 どの靴店の台帳にも、ヴェルデン家の足は存在しない。
 合わない靴では、人は踊れない。立っていることも、できない。

 わたくしは何もしていない。ただ道具を持って実家に帰り、
 母の工房で、次のお客様の足を測っているだけ。

 声を荒らげたことのない女が、捨てた家の足元から崩していく話。

 第1部 全26話・完結予定/ハッピーエンド。
 静かなスカッとと、手に職のあるヒロインがお好きな方へ。
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