婚約破棄をご希望でしたら、契約書の第七条をご確認ください ~王都の水は、わたくしの領地から流れております~
最新エピソード掲載日:2026/09/01
「アデライド・ヴェルネ。お前との婚約を破棄する」
承知いたしました。ただし、契約書の第七条をご確認ください。
――王都の水は、すべてわたくしの領地から流れております。
建国記念の夜会。三百人の前で、王太子殿下はそう仰いました。理由は「お前には心がない。書類しか見ていない」。
そのとおりでございます。わたくしは八歳から、王妃になるためだけに育てられました。七か国語と、二十三の税制と、四百年分の条約史。心の使い方は、教科に含まれておりませんでした。
けれど四百年前、王家はこの地に都を築くにあたって、ヴェルネ家から水を借りております。買ったのではありません。借りたのです。その貸与を十年ごとに更新してきたものが、わたくしと殿下の婚約でございました。
三日で井戸が濁ります。七日で王宮の貯水槽が尽きます。
そして王都が渇きはじめた頃、南の国境から旗を上げた馬車が一台。降りてきたのは「氷の狼」と呼ばれる、隣国ガルデニアの軍務卿でした。懐には、八年前の停戦の朝に十歳のわたくしが地面へ腹ばいで書いた覚書を、一枚。
「あなたを、国ごと買いに来た」
心がないと言われた娘が、契約書一枚で王国を渇かせ、八年ごしの一枚に見つけられるまでの物語です。
承知いたしました。ただし、契約書の第七条をご確認ください。
――王都の水は、すべてわたくしの領地から流れております。
建国記念の夜会。三百人の前で、王太子殿下はそう仰いました。理由は「お前には心がない。書類しか見ていない」。
そのとおりでございます。わたくしは八歳から、王妃になるためだけに育てられました。七か国語と、二十三の税制と、四百年分の条約史。心の使い方は、教科に含まれておりませんでした。
けれど四百年前、王家はこの地に都を築くにあたって、ヴェルネ家から水を借りております。買ったのではありません。借りたのです。その貸与を十年ごとに更新してきたものが、わたくしと殿下の婚約でございました。
三日で井戸が濁ります。七日で王宮の貯水槽が尽きます。
そして王都が渇きはじめた頃、南の国境から旗を上げた馬車が一台。降りてきたのは「氷の狼」と呼ばれる、隣国ガルデニアの軍務卿でした。懐には、八年前の停戦の朝に十歳のわたくしが地面へ腹ばいで書いた覚書を、一枚。
「あなたを、国ごと買いに来た」
心がないと言われた娘が、契約書一枚で王国を渇かせ、八年ごしの一枚に見つけられるまでの物語です。
婚約破棄をご希望でしたら
2026/08/15 19:42
宰相が最初に青ざめた
2026/08/15 19:44
父は十年ぶりにわたくしの名を呼んだ
2026/08/15 19:46
撤回のご要望は承れません
2026/08/15 19:47
渇かせたいのは、民ではございません
2026/08/15 19:48
王都の井戸が濁った日
2026/08/15 19:49
殿下は水の値段をご存じない
2026/08/15 19:50
国境に狼が立っていた
2026/08/15 19:51
氷の狼が門を叩く
2026/08/15 19:53
八年前の一枚
2026/08/15 19:54
わたくしの返答
2026/08/15 19:55
水瓶を空にしてちょうだい
2026/08/18 19:08
水の来た道を、逆に辿ります
2026/08/19 18:55
地下三マイル
2026/08/20 18:43
十九のうち、五つ
2026/08/21 19:07
山へ入ってください
2026/08/22 20:38
鐘は一つ
2026/08/23 19:18
十一日目の朝
2026/08/24 19:58
読む者がひとり
2026/08/25 21:06
二年後に、あの方はここにいない
2026/08/26 19:19
わたくしが行きます
2026/08/27 19:05
王国軍が、水を戻した
2026/08/28 22:07
戻ってまいりました
2026/08/30 22:33
桶に汲めるだけの水
2026/08/31 17:57
王家は、水売りから水を買った
2026/09/01 21:31