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新卒エンジニア、観察ノートを開く

新卒エンジニア、観察ノートを開く(下巻) 道を、選び取る

作者:音無 凪
最新エピソード掲載日:2026/08/26
三年で土台を作る、それが、ヨキエルに来る人たちの責任です」

 入社三年前の最終面接で耳にしたその一言を、桐谷蒼太は、もう自分の言葉として持ち始めていた。

 二十四歳、新卒三年目の春。チームAには、関東中央国立大学から橋本香織が配属される。森山翼に続く、二人目の後輩。蒼太は、香織さんのOJTを始める。

——渡す側に、なる。

 葉山美月のキャリア相談、黒木律のテックリード昇進、商工会議所のITイベントへの代表登壇。三年目の蒼太は、いくつもの「先輩としての場面」を、ひとつずつ受け取っていく。

 夏、二ヶ月のインターンを預かる。教える、という動詞の重みを、蒼太はまだ手で確かめ切れていない。秋には、駅前で、思いがけない再会がある。

 諏訪マネージャーが、新設の事業開発部へ異動する。後任のマネージャーが、チームAに着任する。蒼太は、三年分のノートを机に並べ、技術の縦棒と事業の横棒で、自分の十字を描き直し始める。

 十月の夜、白瀬・間宮との「とんぼ」で三人。視座、視野、視点。三つで初めて見え方が決まる、と白瀬は置く。十一月、村瀬社長と三十分の対話。土曜の夜、岡崎さんと再会する。

 十二月、蒼太の前に、三つの道が開く。

——選び取る、夜。

 そして年が明ける。三年の総決算、研修員論文発表会。一月末の論文提出、課長のレビュー、論文のための夜の机。三月の午後、同期五人が幹部の前で三十分ずつ、自分の三年を自分の言葉で語る。発表の夜には、座敷の慰労会が待っている。

 桜並木通りに、四年目の春の予感が薄く広がっている。

 選び取る決断と継承の物語、最終巻。
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