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ダンジョン点検員、リストラされる。〜「何もしてない」と切られた俺の巡回ルートで、翌週から事故が止まらない〜

作者:更田遅筋
最新エピソード掲載日:2026/08/20
「君はこの十年、成果報告をただの一件も上げていない」

ダンジョン公社の設備点検員・灰田誠、三十四歳。査定でそう言われ、反論もせずに職を辞した。

彼の十年に、載せる数字は何もない。ただ毎日、地下三十八層を歩き、結界柱の音を聴き、切れる前の照明を換え、壊れる前の設備を直し続けただけだ。──その間、彼の担当区画で死んだ人間は、一人もいない。

退職の帰り道、誠は気づいてしまう。第七ダンジョンの心臓部・第三結界柱の唸りが、半音低い。

計器は全部緑。誰に言っても「数値に異常はない」。もう職員でもない男の耳だけが、崩落までの残り日数を数えている。

打てる手を全部断られた男は、入場料八百円を払い、柵の外から柱を聴き続ける。配信者のカメラの端に映り込みながら。

これは、剣も魔法も使えない点検員が、十年分の耳だけで街を守る話。

本人だけが、自分の耳の異常さに気づいていない。

「毎日聴いてれば、普通、わかると思いますけど」
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