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桜の歌

作者:挑戦王
最新エピソード掲載日:2026/06/02
# 「桜の歌」

## 第一章 春のはじまり

春山桜、16歳。

名前とは違って、彼の心に春はなかった。

朝起きて、学校へ行き、帰って寝る。
それだけの毎日。

「将来の夢は?」

そんな言葉を聞かれるたび、胸が苦しくなる。

夢なんてない。
希望なんて、よくわからない。

窓の外を流れる景色を見ながら、桜はいつも思っていた。

――人生って、なんなんだろう。

中学時代、友達は少なかった。
教室の隅で本を読む時間だけが、心を落ち着かせてくれた。

物語の主人公たちは、苦しみながらも前へ進んでいく。
それが少しだけ、羨ましかった。

高校に入学した春の日。

桜は新しい制服の袖を握りながら、静かに校門をくぐった。

「おーい! 同じクラス?」

突然、後ろから声をかけられる。

振り返ると、明るい笑顔の男子が立っていた。

「俺、藤崎蓮! よろしく!」

「……春山桜」

「お、名前かっこいいな!」

その言葉に、桜は少しだけ驚いた。

自分の名前を褒められたことなんて、ほとんどなかったからだ。

その日から、少しずつ世界が変わり始める。

昼休み、一緒にパンを食べる友達ができた。

放課後、「カラオケ行こうぜ」と誘われた。

最初は断ろうと思った。

けれど蓮が、
「桜って歌うまそう」
と言ったから、なんとなくついて行った。

小さなカラオケルーム。

マイクを握る。

流れてきたイントロに合わせて、桜は静かに歌い始めた。

その瞬間。

部屋の空気が変わった。

「……え?」

歌い終わったあと、蓮が目を丸くしていた。

「お前、めちゃくちゃ上手いじゃん!」

「そうかな……」

「絶対、もっと歌ったほうがいいって!」

その言葉が、胸の奥に残った。

家に帰った夜。

桜は古いノートを開いた。

そこには、誰にも見せたことのない言葉たち。

寂しかった日。
苦しかった夜。
消えたくなった瞬間。

全部、本のしおりみたいに挟まれていた。

桜は鉛筆を握る。

そして、初めて“歌詞”として言葉を書いた。

---

「誰にも見えない傷を抱えて
それでも僕らは今日を生きてる」

---

自分の気持ちを言葉にすると、不思議と少しだけ息がしやすくなった。

数日後。

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