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桜の歌  作者: 挑戦王
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第十四章 はじめての配信曲

第十四章 はじめての配信曲


六月。


雨の季節が始まっていた。


教室の窓を叩く雨音を聞きながら、春山桜はノートを見つめていた。


配信デビュー曲。


それが決まらない。


高瀬からは、

「一番“春山桜らしい曲”にしよう」

と言われていた。


でも、それが難しかった。


どの曲も自分だ。


苦しかった夜に書いた歌。


結衣を想って作った歌。


未来が怖い日に生まれた歌。


全部、大切だった。


「悩んでるねぇ」


蓮が後ろから覗き込む。


「うわっ」


「お前最近、“考え込み顔”増えたぞ」


桜は苦笑した。


「配信曲ってなると、なんか……ちゃんとしたくて」


「もう十分ちゃんとしてるだろ」


蓮は机に座りながら言う。


「お前の歌、“うまいから届く”んじゃないし」


桜は少し驚く。


「え?」


「なんつーか、“本音”だから届くんだよ」


その言葉に、

桜は静かに目を伏せた。


本音。


自分が一番最初に歌いたかったもの。


---


放課後。


音楽室には雨音が響いていた。


結衣が窓際で外を眺めている。


桜はギターを抱えながら言った。


「配信曲、まだ決まらなくて」


結衣は振り返る。


「どんな曲にしたいの?」


桜は少し考える。


そして、小さく呟いた。


「……“生きてていい”って思える曲」


結衣は静かに微笑んだ。


「それ、もう答え出てるんじゃない?」


「え?」


「桜くんが、一番伝えたいことでしょ?」


雨が強くなる。


桜はハッとした。


昔の自分は、

“生きてる意味”を探していた。


でも今は違う。


苦しくても、

迷っても、

生きていていい。


その想いを、

誰かへ届けたい。


桜はノートを開く。


新しいページ。


そしてタイトルを書く。


---


『今日を生きて』


---


ペンが止まらなかった。


---


“うまく笑えない朝でも

君はちゃんと息をしてる

それだけでいい

今日はそれだけでいい”


---


書きながら、

桜の目が少し潤む。


これは、

昔の自分へ向けた歌でもあった。


---


数週間後。


レコーディング当日。


スタジオには緊張した空気が流れていた。


マイクの前に立つ。


ヘッドホンをつける。


ガラス越しに、高瀬が親指を立てた。


「いつも通りで」


桜は深呼吸する。


いつも通り。


駅前で歌っていた頃みたいに。


ただ、

誰かへ届ける気持ちだけを込めればいい。


イントロが流れる。


静かなギター。


桜はゆっくり歌い始めた。


---


“泣きたい夜を越えて

君は今日もここにいる”


---


歌いながら、

色んな景色が浮かぶ。


孤独だった中学時代。


初めてギターを買った日。


路上ライブで震えていた夜。


結衣の笑顔。


蓮の声。


全部が、

歌の中へ溶けていく。


気づけば、

桜は涙を流しながら歌っていた。


最後のフレーズ。


---


“生きていていい

君はひとりじゃない”


---


歌い終わる。


静寂。


スタッフたちがしばらく何も言わない。


桜は少し不安になる。


「……すみません、感情入りすぎましたか」


すると高瀬が、

小さく笑った。


「いや」


目が少し赤い。


「すごくよかった」


周りのスタッフも静かに頷いていた。


桜は胸が熱くなる。


ちゃんと、

届けられた気がした。


---


配信リリースの日。


スマホ画面に、

自分の名前と曲タイトルが表示されている。


---


春山桜

『今日を生きて』


---


本当に、世の中へ出るんだ。


指先が震える。


結衣からメッセージが届く。


---


『おめでとう、桜くん』


---


続いて蓮。


---


『ついにデビューじゃん!!!』


---


桜は小さく笑う。


怖い。


でも、それ以上に嬉しかった。


自分の歌が、

もっと遠くまで届いていく。


誰かの夜を、

少しでも照らせるように。


窓の外では、

雨が静かに止み始めていた。


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