第十五章 広がる歌
第十五章 広がる歌
配信リリースから三日後。
春山桜は、自分のスマホを何度も見返していた。
『今日を生きて』
再生回数が、想像以上に伸びていた。
コメント欄には、
たくさんの言葉が並んでいる。
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『この曲に救われた』
『泣きながら聴いてます』
『明日も頑張ろうと思えた』
『“生きていていい”って歌詞で涙止まらなかった』
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桜は画面を見つめたまま、
しばらく動けなかった。
自分が苦しみながら書いた言葉が、
誰かの心へ届いている。
それが嬉しくて、
少し怖かった。
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学校でも変化があった。
昼休み。
知らない生徒に話しかけられる。
「あの曲聴きました!」
「めっちゃ好きです!」
「写真撮ってください!」
桜はまだ慣れない。
「え、あ、ありがとう……」
顔を真っ赤にしながら答える。
蓮は隣で大爆笑していた。
「スターじゃん!!」
「やめろって……」
でも、
どこか夢みたいだった。
ほんの一年前まで、
教室の隅で本を読んでいた自分が。
今、
誰かに名前を呼ばれている。
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放課後。
音楽室へ行くと、
結衣が窓際でイヤホンをつけていた。
「何聴いてるの?」
結衣は片耳を外して笑う。
「桜くんの曲」
桜は一瞬固まる。
「……なんか恥ずかしい」
「ふふ」
結衣は優しく言った。
「でも、本当にいい曲」
桜は隣へ座る。
窓の外では、夕焼けが広がっていた。
「ねえ桜くん」
「ん?」
「最近、色んな人に届くようになったね」
桜は小さく頷く。
「……うん」
「嬉しい?」
少し考える。
そして、静かに答えた。
「嬉しい。でも……怖い時もある」
結衣は黙って聞く。
「期待されると、“ちゃんとしなきゃ”って思っちゃう」
桜は俯いた。
「もし次の曲がダメだったらとか、嫌われたらとか……」
すると結衣が、小さく笑った。
「桜くんって、真面目すぎる」
「え?」
「みんな、“完璧な春山桜”を好きになったわけじゃないよ」
その言葉に、
桜は顔を上げる。
結衣は続けた。
「苦しんだことも、迷うところも含めて、“桜くんの歌”なんだと思う」
胸が少し熱くなる。
弱いままでもいい。
不安でもいい。
それでも歌えばいい。
桜は少しだけ肩の力を抜いた。
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数日後。
高瀬から新しい連絡が入る。
「MV、作ってみる?」
「MV……?」
「ミュージックビデオ。曲を映像にするんだよ」
桜は目を丸くする。
本格的だった。
配信だけじゃない。
映像になって、
もっと多くの人へ届いていく。
高瀬は笑う。
「低予算だけどね」
「いや十分すごいです……」
「河川敷とか、駅前とか。君の“始まりの場所”で撮ろうと思ってる」
その言葉を聞いた瞬間。
桜の胸がじんわり熱くなる。
始まりの場所。
誰にも見向きされなかった夜。
震えながら歌っていた駅前。
あの頃の自分がいたから、
今の自分がいる。
桜は静かに頷いた。
「……やりたいです」
高瀬は満足そうに笑う。
「よし。じゃあ、“春山桜の物語”を映像にしよう」
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その夜。
桜は一人で河川敷へ向かった。
夜風が気持ちいい。
ギターを抱えて座る。
そして、小さく歌い始める。
誰もいない夜。
でも、不思議と孤独じゃなかった。
今は、
自分の歌を待ってくれる人がいる。
支えてくれる人がいる。
夢を信じられる自分がいる。
桜は夜空を見上げる。
星が静かに光っていた。
そして小さく呟く。
「……もっと、遠くへ」
その声は、
夏の始まりの風に乗って、
静かに夜空へ溶けていった。




