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桜の歌  作者: 挑戦王
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## 第十八章 届かない声

## 第十八章 届かない声


夏祭りの夜から数日後。


春山桜は、自分でも気づかないうちに少し浮かれていた。


結衣と過ごした時間。


花火の景色。


「好き」と伝え合えたこと。


思い出すだけで、

胸が温かくなる。


---


しかし同時に、

音楽活動はさらに忙しくなっていった。


MV公開日が近づき、

事務所では毎日のように打ち合わせが続く。


「SNS更新もっと増やそう」


「次のライブ告知も出すよ」


「インタビュー動画も撮るから」


高瀬たちは真剣だった。


桜も必死についていく。


でも、

だんだん余裕がなくなっていった。


---


ある夜。


結衣からメッセージが届く。


---


『最近忙しそうだね』


---


桜は返信を打とうとして止まる。


ちょうどその時、

事務所から電話が入った。


気づけば返信しないまま、

時間だけが過ぎていた。


翌日も。


その翌日も。


桜は毎日追われ続ける。


曲作り。

練習。

打ち合わせ。


嬉しいはずなのに、

心が少しずつ疲れていた。


---


数日後。


放課後の音楽室。


桜が入ると、

結衣が一人で窓の外を見ていた。


夕焼けが差し込んでいる。


「……結衣」


彼女はゆっくり振り返る。


「久しぶり」


その言葉に、

桜の胸が少し痛む。


「ごめん、最近ほんと忙しくて……」


結衣は小さく笑った。


「うん、知ってる」


でも。


その笑顔が、

少しだけ寂しそうだった。


桜は焦る。


「ちゃんと連絡しようと思ってたんだけど」


「うん」


「ほんとにごめん」


結衣は少し黙ってから言った。


「桜くん、頑張ってるもんね」


その優しさが、

逆に苦しかった。


---


沈黙。


窓の外では、

夏の終わりの風が吹いている。


結衣がぽつりと呟く。


「遠くなっちゃった気がする」


桜の心が強く揺れる。


「そんなことない!」


思わず声が大きくなる。


結衣は少し驚く。


桜は苦しそうに言った。


「俺、ちゃんと大事に思ってる」


「……うん」


「結衣がいたからここまで来れたし」


言葉がうまくまとまらない。


焦るほど、

空回りする。


結衣は静かに微笑んだ。


「わかってるよ」


でも。


その“わかってる”が、

どこか遠く感じた。


---


その日の帰り道。


桜は一人で河川敷へ向かった。


夜風が冷たい。


ギターを抱えて座る。


でも、

今日はうまく歌えなかった。


言葉が出てこない。


胸の奥がざわざわする。


夢に近づいている。


なのに、

大切なものが離れていく気がした。


桜は小さく呟く。


「……俺、ちゃんとできてるのかな」


返事はない。


川の音だけが響いている。


---


その時。


スマホが震えた。


蓮からだった。


---


『お前、最近顔やばいぞ』


---


続けてもう一件。


---


『頑張るのは大事だけど、一人で抱え込むなよ』


---


桜は画面を見つめる。


気づかないうちに、

無理をしていたのかもしれない。


“期待に応えなきゃ”


“もっと頑張らなきゃ”


そう思い続けて、

大事な気持ちを見失いかけていた。


桜は夜空を見上げる。


雲の隙間から、

小さな星が見えた。


昔の自分は、

孤独だった。


でも今は違う。


支えてくれる人がいる。


だからこそ、

ちゃんと向き合わなきゃいけない。


夢とも。

大切な人とも。


桜はギターを握り直す。


そして静かに、

新しいメロディを鳴らし始めた。


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