## 第十九章 君に届く歌
## 第十九章 君に届く歌
九月。
夏の熱気が少しずつ消え始め、
夕方の風に秋の匂いが混ざっていた。
春山桜は、
以前より静かになっていた。
学校でも、
事務所でも、
どこか考え込んでいることが増えた。
蓮はそんな桜を見て、
ため息をつく。
「お前、また一人で抱えてるだろ」
昼休み。
屋上。
桜はフェンスにもたれながら苦笑した。
「そんな顔してる?」
「してる」
蓮はジュースを投げ渡す。
「ありがと」
缶を開ける音が響く。
しばらく沈黙が流れたあと、
蓮がぽつりと言った。
「結衣ちゃんのことだろ」
桜は目を伏せる。
図星だった。
「……俺さ」
小さく呟く。
「夢を追いかけたかったはずなのに、最近、“追いつかれるのが怖い”って感じる」
蓮は黙って聞く。
「期待されるのも怖いし、結衣が離れていくのも怖い」
言葉にすると、
胸の奥が少し苦しくなった。
蓮は空を見上げながら言う。
「でもさ」
「うん」
「お前、昔よりちゃんと“誰かを大事にしたい”って思えるようになったじゃん」
桜は少し驚く。
蓮は笑った。
「前のお前、自分のこと諦めてる感じだったし」
その言葉に、
桜は苦笑した。
確かにそうだった。
でも今は違う。
失いたくないと思う人がいる。
だから苦しい。
だから迷う。
でも――。
それって、
ちゃんと生きてるってことなのかもしれない。
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放課後。
桜は結衣を呼び出した。
夕暮れの河川敷。
風が静かに吹いている。
結衣は少し驚いた顔で来た。
「どうしたの?」
桜はしばらく黙っていた。
うまく言葉がまとまらない。
でも、
逃げたくなかった。
「……ごめん」
最初に出たのは、その言葉だった。
結衣は静かに聞いている。
「最近、余裕なくて」
桜は苦しそうに続ける。
「夢に近づくの嬉しいのに、怖くて……ちゃんとしなきゃって思いすぎてた」
風が吹く。
河川敷の草が揺れる。
桜は真っ直ぐ結衣を見る。
「でも、本当は一番大事なもの、忘れたくなかった」
結衣の目が少し揺れる。
桜は言った。
「俺、歌も大事。でも……結衣のことも、ちゃんと大事にしたい」
沈黙。
長い沈黙だった。
やがて結衣が、小さく笑う。
「うん」
その声は優しかった。
「知ってる」
桜の胸が少し軽くなる。
結衣は続けた。
「桜くん、不器用だから」
「……否定できない」
二人で少し笑った。
そして結衣は、
桜の隣へ座る。
「でもね」
「うん?」
「ちゃんと言葉にしてくれて嬉しかった」
その瞬間。
桜の胸の奥にあった不安が、
少し溶けていく。
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夕焼けが広がる河川敷。
桜はギターを取り出した。
「新しい曲、聴いてほしい」
結衣は目を丸くする。
「できたの?」
「まだ途中だけど」
桜は弦を鳴らす。
静かな音が風に混ざる。
タイトルは――『君がいるから』
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“夢を追いかけるほど
見えなくなる夜がある
それでも僕が歩けるのは
君が隣にいるから”
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結衣は黙って聴いていた。
桜は歌う。
今の自分の気持ちを、
そのまま音に乗せて。
歌い終わる頃には、
空が茜色に染まっていた。
結衣は少し涙ぐみながら笑う。
「……ずるい」
「え?」
「そんな歌、好きになるに決まってる」
桜は照れながら笑った。
風が優しく吹く。
遠くで電車の音が聞こえる。
昔は、
未来なんて怖いだけだった。
でも今は違う。
迷いながらでも、
大切な人と一緒に進みたい。
そう思える自分がいた。




