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桜の歌  作者: 挑戦王
20/24

## 第二十章 秋のステージ 十月。

## 第二十章 秋のステージ


十月。


空は高くなり、

風は少し冷たくなっていた。


春山桜のMV『今日を生きて』は、

配信から一か月で大きく広がっていた。


再生回数は何十万回を超え、

コメントは毎日増え続ける。


街を歩けば、

声をかけられることも増えた。


でも。


桜の中で一番大きかったのは、

数字ではなかった。


「歌、聴いて救われました」


その言葉だった。


---


ある日の放課後。


事務所へ向かう途中、

桜は駅前で足を止めた。


自分が初めて歌った場所。


誰にも見向きされなかった場所。


今では、

「今日歌わないんですか?」

と声をかけられる。


不思議だった。


人生なんて、

変わらないと思っていたのに。


---


事務所へ着くと、

高瀬が資料を見ながら言った。


「次、ホールライブ決まったよ」


「ホール……?」


「ワンマン」


桜の思考が止まる。


「え」


「春山桜、初ワンマンライブ」


高瀬はさらっと言う。


「席数は五百くらい」


桜は椅子に座りそうになる。


「ご、五百……!?」


今までで一番大きな挑戦だった。


“自分だけを観に来る人”のライブ。


逃げ場がない。


高瀬は桜を見る。


「怖い?」


桜は正直に頷く。


「……めちゃくちゃ」


高瀬は少し笑った。


「でも君なら大丈夫」


「なんでそんなに信じられるんですか」


すると高瀬は静かに答えた。


「君、自分が思ってるより、人の心を動かしてるから」


その言葉が胸に残る。


---


ライブまで一か月。


桜は必死に準備を始めた。


セットリスト。

新曲制作。

MC練習。


でも、

プレッシャーも大きかった。


“もし客席が埋まらなかったら”


“期待外れだったら”


考えるたび、

眠れない夜が増える。


---


そんなある日。


結衣が言った。


「今度のライブ、楽しみ」


河川敷。


夕焼けの中、

二人で並んで座っていた。


桜は苦笑する。


「俺は怖い」


「知ってる」


結衣は優しく笑う。


「でもね、桜くん」


「ん?」


「“怖いのに進める”って、すごいことだと思う」


桜は少し黙る。


昔の自分は、

怖いものから逃げていた。


未来も、

人間関係も、

自分自身からも。


でも今は違う。


怖くても、

歌いたいと思える。


届けたい未来がある。


---


その夜。


桜は自室で新曲を書いていた。


ワンマンライブの最後に歌う曲。


何を書けばいいのかわからなかった。


でも、

ふとノートに言葉が浮かぶ。


---


“僕はまだ途中だ

それでも君と明日へ行きたい”


---


桜はペンを止める。


そして小さく笑った。


完璧じゃなくていい。


まだ途中でいい。


それでも、

前へ進みたい。


その想いを、

歌にしたかった。


---


ライブ当日が近づくにつれ、

チケットは少しずつ売れていった。


SNSには、

楽しみにしている声が並ぶ。


---


『絶対行きます!』


『生で聴きたい』


『春山桜の歌に救われました』


---


桜はその言葉を読みながら、

静かに目を閉じる。


昔の自分は、

“生きる意味”を探していた。


でも今は。


誰かの明日を、

少しでも照らせる歌を届けたい。


それが、

自分の生きる理由になっていた。


窓の外では、

秋の風が静かに吹いていた。


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