## 第二十章 秋のステージ 十月。
## 第二十章 秋のステージ
十月。
空は高くなり、
風は少し冷たくなっていた。
春山桜のMV『今日を生きて』は、
配信から一か月で大きく広がっていた。
再生回数は何十万回を超え、
コメントは毎日増え続ける。
街を歩けば、
声をかけられることも増えた。
でも。
桜の中で一番大きかったのは、
数字ではなかった。
「歌、聴いて救われました」
その言葉だった。
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ある日の放課後。
事務所へ向かう途中、
桜は駅前で足を止めた。
自分が初めて歌った場所。
誰にも見向きされなかった場所。
今では、
「今日歌わないんですか?」
と声をかけられる。
不思議だった。
人生なんて、
変わらないと思っていたのに。
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事務所へ着くと、
高瀬が資料を見ながら言った。
「次、ホールライブ決まったよ」
「ホール……?」
「ワンマン」
桜の思考が止まる。
「え」
「春山桜、初ワンマンライブ」
高瀬はさらっと言う。
「席数は五百くらい」
桜は椅子に座りそうになる。
「ご、五百……!?」
今までで一番大きな挑戦だった。
“自分だけを観に来る人”のライブ。
逃げ場がない。
高瀬は桜を見る。
「怖い?」
桜は正直に頷く。
「……めちゃくちゃ」
高瀬は少し笑った。
「でも君なら大丈夫」
「なんでそんなに信じられるんですか」
すると高瀬は静かに答えた。
「君、自分が思ってるより、人の心を動かしてるから」
その言葉が胸に残る。
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ライブまで一か月。
桜は必死に準備を始めた。
セットリスト。
新曲制作。
MC練習。
でも、
プレッシャーも大きかった。
“もし客席が埋まらなかったら”
“期待外れだったら”
考えるたび、
眠れない夜が増える。
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そんなある日。
結衣が言った。
「今度のライブ、楽しみ」
河川敷。
夕焼けの中、
二人で並んで座っていた。
桜は苦笑する。
「俺は怖い」
「知ってる」
結衣は優しく笑う。
「でもね、桜くん」
「ん?」
「“怖いのに進める”って、すごいことだと思う」
桜は少し黙る。
昔の自分は、
怖いものから逃げていた。
未来も、
人間関係も、
自分自身からも。
でも今は違う。
怖くても、
歌いたいと思える。
届けたい未来がある。
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その夜。
桜は自室で新曲を書いていた。
ワンマンライブの最後に歌う曲。
何を書けばいいのかわからなかった。
でも、
ふとノートに言葉が浮かぶ。
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“僕はまだ途中だ
それでも君と明日へ行きたい”
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桜はペンを止める。
そして小さく笑った。
完璧じゃなくていい。
まだ途中でいい。
それでも、
前へ進みたい。
その想いを、
歌にしたかった。
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ライブ当日が近づくにつれ、
チケットは少しずつ売れていった。
SNSには、
楽しみにしている声が並ぶ。
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『絶対行きます!』
『生で聴きたい』
『春山桜の歌に救われました』
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桜はその言葉を読みながら、
静かに目を閉じる。
昔の自分は、
“生きる意味”を探していた。
でも今は。
誰かの明日を、
少しでも照らせる歌を届けたい。
それが、
自分の生きる理由になっていた。
窓の外では、
秋の風が静かに吹いていた。




