## 第十七章 夏祭りの
## 第十七章 夏祭りの夜
八月。
夏休みが始まっていた。
春山桜の毎日は、
以前とは比べものにならないほど忙しくなっていた。
MV編集。
ライブ打ち合わせ。
曲作り。
配信準備。
それでも、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ、
“夢に向かってる”実感が嬉しかった。
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ある日の夕方。
結衣からメッセージが届く。
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『夏祭り、一緒に行かない?』
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桜は少し固まった。
夏祭り。
“デート”という言葉が頭をよぎって、
急に緊張する。
返信画面を開いて閉じてを繰り返し、
結局シンプルに返した。
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『行きたい』
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送信したあと、
一人で顔を真っ赤にする。
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夏祭り当日。
夕焼けが空を染める頃。
桜は待ち合わせ場所で落ち着かずに立っていた。
浴衣姿の人たちが歩いていく。
屋台の匂い。
子どもの笑い声。
遠くで聞こえる祭囃子。
心臓がうるさい。
その時。
「待った?」
振り返った瞬間、
桜は言葉を失った。
結衣が浴衣姿で立っていた。
淡い水色の浴衣。
髪は少しだけ結ばれている。
いつもと雰囲気が違う。
綺麗だった。
桜は完全に固まる。
「……どうしたの?」
「え、いや……」
顔が熱い。
結衣は少し笑う。
「変?」
「全然!」
思わず大きな声が出た。
周りの人が少し振り向く。
桜は慌てた。
結衣は楽しそうに笑う。
「ふふ、ありがと」
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祭り会場は賑やかだった。
金魚すくい。
焼きそば。
かき氷。
蓮も途中から合流してきて、
「リア充爆発しろー!!」
と騒いでいた。
「お前うるさい!」
「だって青春してんじゃん!!」
結衣が笑いながら、
りんご飴を差し出す。
「はい、半分こ」
桜は一瞬固まる。
「……え」
「嫌だった?」
「い、嫌じゃない!」
また声が大きくなる。
蓮が腹を抱えて笑っていた。
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夜。
花火が始まる。
河川敷にはたくさんの人が集まっていた。
ドン――
大きな音とともに、
夜空へ花火が広がる。
青。
赤。
金色。
光が結衣の横顔を照らしていた。
桜は静かにその景色を見る。
綺麗だった。
花火も。
今この時間も。
昔の自分なら、
こんな未来は想像できなかった。
結衣がぽつりと言う。
「桜くん」
「ん?」
「最近、遠い人みたい」
桜は驚く。
「え?」
「テレビとかはまだ出てないけど、“これからもっと有名になるんだろうな”って思う」
花火の音が響く。
結衣は少し笑った。
「なんか不思議」
桜はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくり言う。
「俺、変わったかな」
結衣は空を見上げる。
「変わったよ」
胸が少し痛くなる。
でも結衣は続けた。
「でも、“大事なところ”は変わってない」
桜は彼女を見る。
「苦しい人に寄り添いたいとか、優しいところとか」
結衣は微笑む。
「だから好き」
その言葉に、
桜の心臓が跳ねた。
花火の音が遠くなる。
桜は少し照れながら、
小さく笑う。
「……俺も好き」
結衣は顔を赤くして笑った。
その時。
夜空いっぱいに、
大きな花火が咲いた。
光が二人を包む。
桜は思う。
未来はまだわからない。
不安もある。
でも。
今、この瞬間を大切にしたい。
歌も。
夢も。
大切な人も。
全部、失いたくないと思った。
夏の夜風が、
優しく吹いていた。




