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桜の歌  作者: 挑戦王
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第十二章 遠くまで届く声

第十二章 遠くまで届く声


ライブが終わったあとも、

桜の胸の鼓動はしばらく収まらなかった。


ステージ袖へ戻ると、

スタッフたちが口々に声をかけてくる。


「よかったよ!」


「初めてとは思えなかった」


「反応すごかったね」


桜は何度も頭を下げた。


まだ現実感がない。


本当に自分が、

あの大きなステージで歌ったのだろうか。


高瀬が缶コーヒーを差し出す。


「おつかれ」


「……ありがとうございます」


高瀬は少し笑った。


「震えてたね」


「めちゃくちゃ怖かったです」


「だろうね」


二人で小さく笑う。


高瀬は真面目な顔になった。


「でも、ちゃんと届いてた」


その言葉に、

桜の胸がじんわり熱くなる。


---


会場の外へ出ると、

夜風が火照った身体を冷ましてくれた。


すると突然、誰かが飛びついてくる。


「桜ーーーー!!!」


蓮だった。


「ぐぇっ!?」


「お前マジで最高だった!!!」


目を真っ赤にしている。


「途中で普通に泣いたんだけど!?」


「泣きすぎでしょ……」


その後ろで、

結衣が静かに笑っていた。


「おつかれさま」


その一言だけで、

桜の心が落ち着く。


「……どうだった?」


結衣は少し目を細める。


「すごく、桜くんだった」


桜はきょとんとする。


「え?」


「上手く言えないけど……ちゃんと“気持ち”が届いた」


その言葉が嬉しくて、

桜は少し照れながら笑った。


---


帰り道。


三人で夜の街を歩く。


ライブ帰りの人たちが、

まだ興奮した様子で話している。


その時。


後ろから声が聞こえた。


「あの!」


振り返ると、

高校生くらいの女の子が立っていた。


緊張した顔で、

スマホを握っている。


「さっき歌ってた人……ですよね?」


桜は驚きながら頷く。


「はい」


女の子は少し震えながら言った。


「私……最近ずっと苦しくて」


桜たちは黙って聞く。


「学校もつらくて、自分なんていなくなればいいって思ってました」


桜の胸が締めつけられる。


それは、

昔の自分そのものだった。


女の子は涙をこらえながら続ける。


「でも、歌聴いて……もう少し頑張ってみようって思えました」


夜風が吹く。


桜は何も言えなかった。


ただ、胸が熱かった。


自分の歌が、

誰かの“生きたい”につながった。


それが苦しいほど嬉しかった。


女の子は頭を下げる。


「ありがとうございました」


去っていく背中を見ながら、

桜は静かに空を見上げた。


星が綺麗だった。


---


その夜。


桜は自室でギターを抱えていた。


机の上には、

今日のライブパス。


夢みたいな一日だった。


でも、終わりじゃない。


むしろ、

ここから始まる。


桜はノートを開く。


真っ白なページ。


ペンを握る。


浮かんできた言葉を、

そのまま書き始めた。


---


“君が明日を嫌いになっても

僕は君に歌を届ける”


---


書きながら、

桜は少し笑った。


前は、自分を救うために歌っていた。


でも今は違う。


誰かのために歌いたい。


苦しい夜を越えられるように。


“ひとりじゃない”って伝えられるように。


スマホが震える。


SNS通知だった。


ライブ動画が急速に拡散されていた。


コメントが流れていく。


---


『名前知らなかったけど泣いた』


『歌詞が刺さる』


『この人、絶対有名になる』


---


桜はしばらく画面を見つめる。


怖さもある。


期待されるほど、

不安も大きくなる。


でも。


もう逃げたくなかった。


桜はギターを抱え直す。


そして静かに呟く。


「……もっと、遠くまで届けたい」


窓の外では、

春の夜風が優しく吹いていた。


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