第十一章 千人の前で
第十一章 千人の前で
ライブ当日。
朝から桜の心臓は落ち着かなかった。
千人規模のライブ。
有名アーティストの前座。
想像するだけで、胃が痛くなる。
鏡の前で深呼吸を繰り返していると、スマホが震えた。
蓮からだった。
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『今日、絶対伝説になる』
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続いてもう一件。
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『失敗してもいいから、本気で歌え!』
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桜は思わず笑う。
そのあと、結衣からもメッセージが届いた。
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『桜くんらしくね』
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その一言が、一番胸に残った。
“桜くんらしく”
上手く見せる必要はない。
完璧じゃなくていい。
ただ、自分の言葉を歌えばいい。
桜はスマホを閉じ、ギターケースを持った。
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ライブ会場。
巨大なホール。
照明。
スタッフ。
機材の数。
全部が今までと違う。
控室にはモニターがあり、
ステージの様子が映っている。
有名アーティストのリハーサルを見ながら、桜は呆然としていた。
「……すご」
自分がここへ立つなんて、
少し前まで考えもしなかった。
高瀬が隣へ来る。
「緊張してる?」
「……はい」
「まあ、するよね」
高瀬は笑う。
「でも、忘れないで」
桜を見る。
「今日のお客さん全員を感動させなくていい」
桜は黙って聞く。
「たった一人でも、“届いた”って思える人がいたら、それで意味がある」
その言葉が、胸へ静かに落ちていく。
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開演十分前。
ステージ袖。
客席から大きなざわめきが聞こえる。
千人の声。
足が震える。
手も冷たい。
逃げたい。
本気でそう思った。
「春山くん、準備お願いします」
スタッフに呼ばれる。
桜はギターを強く握る。
その時。
ポケットの中で、小さな紙に触れた。
結衣が昨日くれたメモだった。
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『桜くんの歌は、誰かを救えるよ』
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たった一文。
でも、それだけで涙が出そうになる。
桜は深呼吸した。
大丈夫。
一人じゃない。
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ステージへ出る。
眩しいライト。
広すぎる客席。
ペンライトの光が揺れている。
歓声が聞こえる。
桜の喉がカラカラになる。
マイクの前に立つ。
沈黙。
そして、震える声で言った。
「……春山桜です」
客席が静かになる。
「今日は、“苦しい夜を越えたい人”へ歌います」
ギターを鳴らす。
静かなイントロ。
会場いっぱいに音が広がる。
桜は歌い始めた。
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“泣きたい夜に
声を殺していた
誰にも弱さを見せられなくて”
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最初は震えていた声が、
少しずつ強くなる。
客席を見渡す。
真剣に聴いている人たち。
静かに目を閉じる人。
涙を拭う人。
桜の胸が熱くなる。
届いてる。
ちゃんと。
歌は、届いてる。
桜は感情のまま歌った。
苦しかった過去。
救われた瞬間。
出会った人たち。
全部を声へ乗せる。
最後のサビ。
桜は声を張り上げた。
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“それでも君が生きてるなら
明日はきっと来るから”
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最後のコードを鳴らす。
静寂。
一秒。
二秒。
次の瞬間。
会場を揺らすような拍手が響いた。
歓声。
大きな拍手。
桜は息を切らしながら立ち尽くす。
信じられなかった。
千人の前で、
自分の歌が響いていた。
その時。
客席の前方に、
蓮と結衣の姿が見えた。
蓮は号泣しながら拍手している。
結衣は涙を浮かべながら、優しく笑っていた。
その顔を見た瞬間。
桜の目にも涙が溢れた。
昔は、
未来なんていらないと思っていた。
でも今は違う。
もっと歌いたい。
もっと、生きたい。
ステージの光の中で、
春山桜は確かに前を向いていた。




