表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜の歌  作者: 挑戦王
11/24

第十一章 千人の前で

第十一章 千人の前で


ライブ当日。


朝から桜の心臓は落ち着かなかった。


千人規模のライブ。


有名アーティストの前座。


想像するだけで、胃が痛くなる。


鏡の前で深呼吸を繰り返していると、スマホが震えた。


蓮からだった。


---


『今日、絶対伝説になる』


---


続いてもう一件。


---


『失敗してもいいから、本気で歌え!』


---


桜は思わず笑う。


そのあと、結衣からもメッセージが届いた。


---


『桜くんらしくね』


---


その一言が、一番胸に残った。


“桜くんらしく”


上手く見せる必要はない。


完璧じゃなくていい。


ただ、自分の言葉を歌えばいい。


桜はスマホを閉じ、ギターケースを持った。


---


ライブ会場。


巨大なホール。


照明。

スタッフ。

機材の数。


全部が今までと違う。


控室にはモニターがあり、

ステージの様子が映っている。


有名アーティストのリハーサルを見ながら、桜は呆然としていた。


「……すご」


自分がここへ立つなんて、

少し前まで考えもしなかった。


高瀬が隣へ来る。


「緊張してる?」


「……はい」


「まあ、するよね」


高瀬は笑う。


「でも、忘れないで」


桜を見る。


「今日のお客さん全員を感動させなくていい」


桜は黙って聞く。


「たった一人でも、“届いた”って思える人がいたら、それで意味がある」


その言葉が、胸へ静かに落ちていく。


---


開演十分前。


ステージ袖。


客席から大きなざわめきが聞こえる。


千人の声。


足が震える。


手も冷たい。


逃げたい。


本気でそう思った。


「春山くん、準備お願いします」


スタッフに呼ばれる。


桜はギターを強く握る。


その時。


ポケットの中で、小さな紙に触れた。


結衣が昨日くれたメモだった。


---


『桜くんの歌は、誰かを救えるよ』


---


たった一文。


でも、それだけで涙が出そうになる。


桜は深呼吸した。


大丈夫。


一人じゃない。


---


ステージへ出る。


眩しいライト。


広すぎる客席。


ペンライトの光が揺れている。


歓声が聞こえる。


桜の喉がカラカラになる。


マイクの前に立つ。


沈黙。


そして、震える声で言った。


「……春山桜です」


客席が静かになる。


「今日は、“苦しい夜を越えたい人”へ歌います」


ギターを鳴らす。


静かなイントロ。


会場いっぱいに音が広がる。


桜は歌い始めた。


---


“泣きたい夜に

声を殺していた

誰にも弱さを見せられなくて”


---


最初は震えていた声が、

少しずつ強くなる。


客席を見渡す。


真剣に聴いている人たち。


静かに目を閉じる人。


涙を拭う人。


桜の胸が熱くなる。


届いてる。


ちゃんと。


歌は、届いてる。


桜は感情のまま歌った。


苦しかった過去。


救われた瞬間。


出会った人たち。


全部を声へ乗せる。


最後のサビ。


桜は声を張り上げた。


---


“それでも君が生きてるなら

明日はきっと来るから”


---


最後のコードを鳴らす。


静寂。


一秒。


二秒。


次の瞬間。


会場を揺らすような拍手が響いた。


歓声。


大きな拍手。


桜は息を切らしながら立ち尽くす。


信じられなかった。


千人の前で、

自分の歌が響いていた。


その時。


客席の前方に、

蓮と結衣の姿が見えた。


蓮は号泣しながら拍手している。


結衣は涙を浮かべながら、優しく笑っていた。


その顔を見た瞬間。


桜の目にも涙が溢れた。


昔は、

未来なんていらないと思っていた。


でも今は違う。


もっと歌いたい。


もっと、生きたい。


ステージの光の中で、

春山桜は確かに前を向いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ