第二章 言葉が届く場所
第二章 言葉が届く場所
冬休みに入っても、春山桜は毎日のように駅前へ通っていた。
白い息を吐きながら、ギターケースを開く。
最初は数人しか止まらなかった観客も、少しずつ増えていった。
「この前も歌ってたよね?」
「今日も聴きに来ました」
そんな言葉をかけられるたび、桜は胸の奥が熱くなる。
自分の歌なんて、誰にも必要とされないと思っていた。
でも今は違う。
誰かが、自分の言葉を待ってくれている。
それが信じられなかった。
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ある日の放課後。
桜が教室で歌詞を書いていると、蓮が机に突っ伏しながら言った。
「なあ桜、ライブハウス出てみない?」
「……ライブハウス?」
「知り合いの先輩がやってる店! 高校生でも出れるらしい」
桜は思わず手を止めた。
路上ライブとは違う。
照明があって、ステージがあって、
ちゃんと“聴きに来る人”がいる場所。
そんなところ、自分にはまだ早い。
「無理だよ」
桜は小さく笑った。
だが蓮は真っ直ぐ言う。
「桜の歌、もっといろんな人に聴いてほしい」
その言葉を聞いて、結衣も頷いた。
「私もそう思う」
二人の視線がまぶしくて、桜は目を逸らした。
昔の自分なら、絶対に逃げていた。
でも今は――少しだけ、挑戦してみたいと思ってしまった。
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ライブの日。
小さなライブハウスには、十数人ほどの客がいた。
ステージ袖で、桜は震える手を握りしめる。
心臓の音がうるさい。
逃げたい。
「大丈夫」
結衣がそっと言った。
「桜くんの歌、私は好きだから」
その一言が、不思議なくらい力になった。
スタッフに呼ばれ、ステージへ上がる。
ライトが眩しい。
客席が暗くてよく見えない。
マイクの前に立った瞬間、頭が真っ白になった。
――無理かもしれない。
そう思った時。
最前列で、蓮が大きく手を振っていた。
結衣も笑っている。
桜は深く息を吸った。
そして、静かにギターを鳴らす。
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「ひとりぼっちだと思ってた
誰にも見えない場所で泣いてた」
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歌い始めると、不思議と怖さが消えていく。
歌詞に、自分の過去を乗せる。
苦しかった夜。
消えたかった日々。
誰にも言えなかった孤独。
全部、音に変えて放った。
客席の誰かが、静かに涙をぬぐっていた。
その瞬間。
桜の胸の奥で、何かが弾けた。
歌は、ただの趣味じゃない。
誰かを救えるかもしれない。
自分が本に救われたみたいに。
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ライブ後。
一人の女性が桜に声をかけてきた。
「すごく良かったです」
二十代くらいの女性だった。
「実は最近、つらくて……消えたいって思ってたんです」
桜は息を飲む。
女性は続けた。
「でも、あなたの歌を聴いて、“もう少し頑張ろう”って思えました」
桜は何も言えなかった。
ただ胸が熱くなって、視界が滲んだ。
自分の言葉が、
誰かの明日につながった。
それが嬉しくて、苦しくて、
涙が出そうだった。
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帰り道。
冬の街を三人で歩く。
蓮は興奮した様子で言った。
「桜! マジでスターじゃん!」
「大げさだよ……」
結衣は少し笑って、桜の隣を歩く。
「でも、本当にすごかった」
「……ありがとう」
沈黙が流れる。
冷たい風。
白い息。
その時、結衣が小さく言った。
「私ね、桜くんの歌に救われてるよ」
桜は足を止めた。
「え……?」
「苦しい時とか、不安な時とか。桜くんの歌聴くと、“大丈夫かも”って思える」
結衣は少し照れながら笑う。
その笑顔を見た瞬間。
桜の胸が強く高鳴った。
ずっと、自分には何もないと思っていた。
でも今は違う。
歌がある。
友達がいる。
大切な人がいる。
そして――夢がある。
シンガーソングライターになる。
自分の言葉で、
誰かの人生を照らせるような歌を作る。
桜は夜空を見上げた。
あの日より、少しだけ世界が綺麗に見えた。




