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桜の歌  作者: 挑戦王
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# 第二十三章 夢のその先へ

# 第二十三章 夢のその先へ


ワンマンライブから一週間後。


春山桜は、

久しぶりに何も予定のない日曜日を迎えていた。


朝。


目を覚ましても、

レッスンはない。


打ち合わせもない。


ライブもない。


静かな部屋。


窓から差し込む柔らかな光。


桜はベッドの上で天井を見つめていた。


そして、ふと思った。


「終わったんだな……」


人生で一番大きなライブ。


夢だったワンマンライブ。


あの日の景色は、

今も鮮明に残っている。


五百人の拍手。


アンコール。


泣きながら歌った最後の曲。


全部。


---


スマホが震えた。


高瀬からだった。


---


『今日、事務所来られる?』


---


桜は少し首を傾げた。


特に予定は聞いていない。


何だろう。


---


午後。


事務所へ向かう。


すると、

会議室には高瀬だけではなく、

見知らぬ大人たちがいた。


スーツ姿。


真剣な表情。


桜は緊張する。


「失礼します……」


高瀬が笑った。


「座って」


桜は恐る恐る席につく。


すると一人の男性が資料を差し出した。


「春山さんの楽曲を聴かせていただきました」


桜は固まる。


「はい……」


男性は微笑む。


「ぜひ来年の全国新人アーティストフェスへ出演していただきたいと思っています」


一瞬。


意味が理解できなかった。


「……え?」


部屋が静まる。


男性は続ける。


「全国規模です」


桜の思考が止まる。


全国。


その言葉の重さに、

息ができなくなる。


---


打ち合わせが終わったあと。


桜は事務所の屋上にいた。


風が冷たい。


空が高い。


高瀬が隣へ来る。


「びっくりした?」


「……はい」


「だろうね」


桜は苦笑した。


でも、

不安も大きかった。


「俺なんかで大丈夫なんですかね」


高瀬は即答した。


「その台詞、何回目?」


桜は思わず笑う。


高瀬は真面目な顔になる。


「桜」


初めて名前だけで呼ばれた。


「君は、歌が上手いからここまで来たわけじゃない」


桜は黙って聞く。


「誰かに寄り添おうとしたからだ」


風が吹く。


高瀬は続ける。


「だから、もっと遠くへ行ける」


その言葉が、

胸の奥へ深く残った。


---


夕方。


桜は河川敷へ向かった。


気づけば、

ここへ来るのが習慣になっていた。


川の流れる音。


冷たい風。


夕焼け。


全部が落ち着く。


そこへ結衣がやって来る。


「呼び出してごめん」


「どうしたの?」


桜は少し笑った。


「実は……」


そして、

全国フェスの話を伝えた。


結衣は目を丸くする。


「すごい……!」


自分のことのように喜んでくれる。


桜は少し照れる。


「でも怖い」


本音だった。


規模が大きくなるほど、

不安も大きくなる。


結衣は静かに笑った。


「桜くん」


「ん?」


「最初の路上ライブ覚えてる?」


桜は頷く。


もちろん覚えている。


誰も立ち止まらなかった日。


震えていた日。


結衣は言った。


「その頃も怖がってたよね」


「……うん」


「でも今ここにいる」


桜は黙る。


確かにそうだった。


怖くても。


何度も迷っても。


気づけば、

少しずつ前へ進んでいた。


結衣は優しく言った。


「今回も大丈夫」


夕焼けが二人を照らす。


「だって桜くんは、ちゃんと進める人だから」


桜の目が少し熱くなる。


---


その夜。


自室。


机の前。


真っ白なノート。


桜はゆっくりペンを持った。


そして新しいページへ書く。


---


『夢のその先へ』


---


タイトルだった。


昔は、

夢なんて持てなかった。


でも今は違う。


夢を見つけた。


追いかけている。


そして。


その先にある景色を、

見てみたいと思っている。


桜は静かに笑う。


窓の外には、

冬へ向かう星空が広がっていた。


そして、

新しい歌が生まれ始めていた。


---


**第一部・完**


**第二部『夢のその先へ』へ続く。**


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