婚約破棄も濡れ衣も、もう結構です。——ただし宰相閣下、貴家が伯爵位を賜ったと書かれたその一枚は、いつ漉かれた紙でしょうか
最終エピソード掲載日:2026/09/06
その紙が漉かれたのは、署名の日の三年後でした。
王家文書院の記録官アニエス・ドレーヌは、ある朝、自分の署名入りの偽造文書を見せられる。
「わたしにはできます。ですから、わたしがやっていないことを、わたしの言葉で証明することはできません」
紙の年代を読めるのは書記官だけ。専門性はそのまま容疑の根拠になり、その日の夕、婚約者は人目のない馬車寄せで彼女を切り捨てた。四十日後の正本化の儀を過ぎれば、嘘は正史として確定する。
降格先の書庫の奥には、どの記録にも載っていない男が座っていた。
「あなたに頼みがある。俺がいたことを、書いてくれ」
偽造は、今回が初めてではない。六十二年前の火災から書き継がれてきた改竄の連鎖——その筆は、彼女の家のものだった。
王家文書院の記録官アニエス・ドレーヌは、ある朝、自分の署名入りの偽造文書を見せられる。
「わたしにはできます。ですから、わたしがやっていないことを、わたしの言葉で証明することはできません」
紙の年代を読めるのは書記官だけ。専門性はそのまま容疑の根拠になり、その日の夕、婚約者は人目のない馬車寄せで彼女を切り捨てた。四十日後の正本化の儀を過ぎれば、嘘は正史として確定する。
降格先の書庫の奥には、どの記録にも載っていない男が座っていた。
「あなたに頼みがある。俺がいたことを、書いてくれ」
偽造は、今回が初めてではない。六十二年前の火災から書き継がれてきた改竄の連鎖——その筆は、彼女の家のものだった。
第001話 わたしには、できます
2026/08/22 08:14
第002話 あなたに頼みがある
2026/08/22 18:06
第003話 書いた者と、署名した者
2026/08/23 08:32
第004話 はじめから、書かれていない
2026/08/23 17:16
第005話 同じ一枚の、裏と表
2026/08/25 00:51
第006話 わたしの家は、あったのです
2026/08/25 23:18
第007話 写させられた手
2026/08/26 05:52
第008話 まだ、この国にない筆
2026/08/26 21:27
第009話 祈りが、乱れていたのでしょう
2026/08/27 07:35
第010話 外の光を見た頁
2026/08/27 23:23
第011話 一晩の水、四十年の紙
2026/08/29 09:57
第012話 削られた一行
2026/08/29 14:13
第013話 煤の一行
2026/08/30 00:42
第014話 喪の色の屑
2026/08/30 08:57
第015話 同じ、すぎます
2026/08/30 12:37
第016話 署名のない本文
2026/08/30 17:23
第017話 原本と呼ばれてきた写し
2026/08/31 08:10
第018話 そろいすぎた束
2026/09/01 08:20
第019話 何一つ偽っていない
2026/09/02 07:20
第020話 一晩で古びた紙
2026/09/03 07:50
第021話 筆は、人を指しません
2026/09/04 07:30
第022話 いつ漉かれた紙でしょうか
2026/09/04 19:20
第023話 増えた頁
2026/09/05 06:30
第024話 赦せるのは、人だけです
2026/09/05 16:20
番外編01 あなたの名の隣に、俺の名を書かせてくれ
2026/09/06 07:53