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夫が愛人を連れ帰りましたので、この家の女はもう髪を結えません

作者:椿野すず
最新エピソード掲載日:2026/08/25
夫が愛人を連れ帰った日、わたくしは櫛を置きました。――この国では、髪の結い方が、家の紋でございます。

レンヴァルト侯爵家に嫁いで七年。わたくしは、この家でただ一人「三つ編みの冠」を結える結い手でした。
けれど旦那様は若い愛人を連れて帰り、こう仰いました。「お前の代わりはいる」と。

承知いたしました。ではお返しいたします。
結い形の名は台帳に残ります。けれど結い方は、紙には書けません。手にしか、残らないのです。

街で母の髪結い処を開いたわたくしのもとには、髪を結えない人が一人ずつ訪ねてきます。
そして季節がめぐるたび、あの家の女たちは、公の場から静かに消えていきます。

わたくしは一度も告発いたしません。ただ、結わないだけ。

全18話・第1部完結予定/ハッピーエンド。
静かなスカッと、手仕事の匂い、報復しない主人公がお好きな方へ。恋愛はゆっくりです。
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