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氷の柊さんは俺の前でだけ甘い

最新エピソード掲載日:2026/09/03
 朝、目を覚ますと、幼馴染がベッドの脇に立っている。

「おはようございます、湊様。では、布団を剥がします」

 天羽湊(あもうみなと)の一日は、柊千夜(ひいらぎちよ)に何もかもやってもらうところから始まる。着替えも、朝食も、寝癖直しも。黒髪に無表情、口調はどこまでも事務的な敬語。それなのに、やることだけが異常に甘い。

「自分で着られる」
「存じております」
「じゃあ」
「私が着せたいので」

 三年前、千夜は家族を失い、天羽家に引き取られた。それから半年後、彼女は自分から家のことを全部引き受けると言い出した。両親は海外。広すぎる家に、同い年の二人きり。学校では同居を隠して他人のふりをして、家に帰れば徹底的に甘やかされる。そんな生活が、もう三年続いている。

 湊は千夜のことが好きだ。
 でも言えない。言ってしまえば、千夜がこの家にいる理由を壊すことになるから。

 千夜の髪型は毎日変わる。ポニーテールの日は機嫌がいい。三つ編みは平常運転。きっちり結い上げた日は、覚悟したほうがいい。三年かけて覚えた機嫌の法則の上で、二人の関係はぎりぎり均衡していた。

 その均衡が崩れたのは、通学路のいつもの角で、湊が転入生とぶつかった朝からだった。

 鷹司麗華(たかつかされいか)。学園理事長の孫娘で、疑うということを一度も教わらずに育った令嬢。二人の関係に気づかない、たった一人の人間。そして彼女に付き添う先輩・早乙女楓(さおとめかえで)は、一目で全てを見抜いた上で、面白がって黙っている。

 麗華は湊に惹かれていく。まっすぐに、遠慮なく、悪気なく。

 そしてある朝、麗華は千夜に頼みごとをした。

 千夜の返事は、これだけだった。

「——少し、考えさせてください」

 クールなのに甘すぎる幼馴染と、想いを言えない主人公の、恥ずかしいくらい甘い二人暮らし。その形が、次第に、変容していく。

 
序章「いつもの朝は敗北から始まる」
序章
2026/08/29 11:30
一章「氷の柊さんは今日も他人のふりをする」
一話
2026/08/29 13:32
二話
2026/08/29 14:23
三話
2026/08/29 15:27
四話
2026/08/29 16:12
幕間I「私の数え方」
幕間I
2026/08/29 17:10
二章「天真爛漫な鷹司さんは空気を読まない」
五話
2026/08/29 21:26
六話
2026/08/30 02:25
七話
2026/08/30 11:41
八話
2026/08/30 14:00
三章「使用人の柊さんは一歩下がる」
九話
2026/08/30 18:07
十話
2026/08/30 20:50
十一話
2026/08/30 22:02
十二話
2026/08/31 09:08
十三話
2026/08/31 21:49
十四話
2026/08/31 22:21
幕間II「完璧な使用人の早乙女さんは数えない」
幕間II
2026/09/01 08:29
四章
十五話
2026/09/01 21:02
十六話
2026/09/01 22:32
十七話
2026/09/01 22:56
十八話
2026/09/03 08:30
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