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天眼の手は、コーヒーが冷めるまでに帰る

作者:七宵 凪
最新エピソード掲載日:2026/07/06
※本作は原則、話の間に繋がりが無いように書いているので、以下の概要だけ読んでいただければ、どこから読んでもあまり問題ありません。

―—
北の空には、月よりやや小さい天体が常駐している。
動かず、消えず、形も変わらない。
ひとはこれを「天眼」と呼ぶ。

天眼の目的は、未知の観測。
新しい可能性を持つ存在──未知の芽を守り、
文明を既知の終末へと引き戻す芽──淀みの種を剪定する。

そのための実行担当が、天眼の手。
そのための観察担当が、天眼の瞳。
天眼に直接指名された彼らは、エリア単位でペアを組む。
ただし、その存在は完全に秘匿されている。

緒方拓真、大学生。哲学科。バイト先は喫茶店。
彼が天眼の手として担当するのは、凪浦市、琴生市、槙ヶ崎市の三市。
相棒の天眼の瞳は二人。
顕在化した案件を持ち込む、冷徹な氷見透華。
潜在的な兆候を持ち込む、中性的な七海昴。

「マスター、ちょっと出てきます」
「はい、行ってらっしゃい」

今日もどこかで、淀みの種が顔を出す。
だるい大学生は、それを淡々と剪定して、コーヒーが冷めるまでに帰る。

連作短編・現代伝奇。
冷凍倉庫の温度には、十二年分の重さがある
特進クラスの自習室には呼吸が一つしかない
廃工場には終わっていない仕事がある
アーケードの二階には終わらない朝が積もっている
奥槙荘の階段には増えてはならない段がある
沖埜台団地の四階には三人分の足音しかない
羽鳥神社の本殿には固まった祈りが立っている
奥津野駅のホームには戻されない歩幅がある
凪浦総合病院の旧館には届かない頼みごとが積もっている
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