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「十七時四十五分、向かいのホームの君」

最新エピソード掲載日:2026/08/12
 海沿いの町の外れ、向かい合った二本のホームだけの無人駅。夕方、上下の列車が続けて出ていった後、次の一本が来るまでの十分間だけ、そこには時刻表の谷間のような静かな空白が訪れる。

 真木創太(まきそうた)にとって、その十分間は仮面を外せる唯一の時間だった。過去の出来事から本音は人を傷つける凶器だと信じ、教室では誰にでも調子を合わせて笑ってみせる。深く関わらなければ、誰も傷つけずに済む、そう決めて生きてきた。

 線路を挟んだ向かいのホームには、いつも一人で本を読んでいる少女がいる。白瀬凪咲(しらせなぎさ)。周囲には完璧な優等生に見える彼女もまた、言えない言葉を抱えていた。悪意のない期待に応え続けるうちに、本当のことを言おうとすると喉が塞がり、声が出なくなっていった。

 十メートルの距離と線路。声の届かないその隔たりを、ある日ふたりは、紙に書いた文字だけで越えはじめる。

 名前も素性も明かさないまま、書いて、掲げて、読んで、返す。一日たった十分の、ひどく不器用で、けれど何より正直なやり取りだけが、少しずつ互いの内側を変えていく。

 秋から冬へ、季節は過ぎていく。その十分間に、静かに終わりが近づいていることを、まだ二人は知らない。

 声にできない言葉を、紙の上で交わした、冬の物語。
プロローグ「軌道上の空白」
プロローグ
2026/08/08 21:14
一章「紙面上の距離」
一話
2026/08/08 21:22
二話
2026/08/08 21:29
三話
2026/08/08 21:42
四話
2026/08/09 07:43
五話
2026/08/09 09:35
六話
2026/08/09 18:18
七話
2026/08/10 07:46
八話
2026/08/10 10:14
二章「水銀灯下の独白」
九話
2026/08/10 23:24
十話
2026/08/11 00:00
十一話
2026/08/11 05:37
十二話
2026/08/11 05:49
十三話
2026/08/11 12:00
十四話
2026/08/11 14:44
十五話
2026/08/11 15:21
三章「世界で一番遠いチョコレート」
十六話
2026/08/11 21:25
十七話
2026/08/12 04:56
十八話
2026/08/12 15:00
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