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『男気の虫』

作者:こうた
最終エピソード掲載日:2026/08/30
『男気の虫』

『男気の虫』

「男なら、助けてやれよ」

その一言から、すべてが始まった。

真面目で気の弱い青年・直人は、ただ普通に幸せになりたかった。仕事をして、借金とは無縁の生活を送り、いつか好きな人と家庭を築く――それだけでよかった。

しかし、友人から金を頼まれたことをきっかけに、直人の人生は狂い始める。

「仲間だろ?」
「ここで逃げるのか?」
「男気を見せろ」

断れば、卑怯者になる。
助ければ、金を失う。

そして直人は、博打へと引き込まれていく。

最初は勝った。
だから、もっと勝てると思った。

負ければ「取り返せ」。
借金をすれば「男なら責任を取れ」。
金を手にすれば、人が群がる。

まるで、血を吸う寄生虫のように。

直人の周囲から、本当に彼を心配する友人だけが一人、また一人と離れていく。

残ったのは、金を求める者たちと、膨らみ続ける借金。

やがて直人は、やりたくもなかった犯罪に手を染める。

仲間とともに行った窃盗。

しかし――逮捕されたのは、直人だけだった。

「そんなこと、頼んでいない」
「勝手にやったんだろ?」

仲間たちは、蜘蛛の子を散らすように消えた。

金もない。
仲間もいない。
愛する人もいない。

残ったのは、莫大な借金と、消えることのない罪。

そして刑務所の中で、直人は気づく。

「男気を見せろ」という言葉は、誰かを助けるための言葉ではなかった。

それは、人間に寄生し、金も人生も吸い尽くす――呪いだった。

そして今日も、耳元で声がする。

「男気を見せろ」

その声は、もう誰かの声ではなかった。

直人自身の声だった。
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