夫は色の名前をひとつも知りませんでした。けれど私が染めた布を、一枚も手放しませんでした
最終エピソード掲載日:2026/04/17
イレーネは伯爵家の令嬢にして、王都でも指折りの染色師だ。
令嬢らしからぬ指先の染みも、藍瓶の発酵臭も厭わない。茜を煮出すときの工房の熱気も、布を引き上げた瞬間に現れる色の深さも、彼女にとっては何ものにも代えがたい。
ところが、政略結婚の相手は北の辺境を治める若き辺境伯クラウス。噂では「灰色の城」と呼ばれ、色のある調度も衣服もないという。
嫁いだ先は、本当に灰色だった。城壁も食器も使用人の衣も全て無彩色。——けれど城の地下蔵には、褪せた古い染め布が大量に眠っていた。
この土地にはかつて、鮮やかな染色文化があった。なぜ失われたのか、誰も教えてくれない。
イレーネは夫にひとつだけ頼んだ。
「染めることを、お許しいただけますか」
無口な夫は、短く頷いた。
——そして彼女が最初に染め上げた茜色の布を、翌朝、執務室の壁にそっと掛けていた。
忘れられた色を取り戻す染色師と、色の名前を知らない夫の物語。
令嬢らしからぬ指先の染みも、藍瓶の発酵臭も厭わない。茜を煮出すときの工房の熱気も、布を引き上げた瞬間に現れる色の深さも、彼女にとっては何ものにも代えがたい。
ところが、政略結婚の相手は北の辺境を治める若き辺境伯クラウス。噂では「灰色の城」と呼ばれ、色のある調度も衣服もないという。
嫁いだ先は、本当に灰色だった。城壁も食器も使用人の衣も全て無彩色。——けれど城の地下蔵には、褪せた古い染め布が大量に眠っていた。
この土地にはかつて、鮮やかな染色文化があった。なぜ失われたのか、誰も教えてくれない。
イレーネは夫にひとつだけ頼んだ。
「染めることを、お許しいただけますか」
無口な夫は、短く頷いた。
——そして彼女が最初に染め上げた茜色の布を、翌朝、執務室の壁にそっと掛けていた。
忘れられた色を取り戻す染色師と、色の名前を知らない夫の物語。
第一話 藍瓶の香りがする工房で
2026/04/04 07:30
第二話 嫁入り道具は染料百色
2026/04/04 12:30
第三話 北の街道を行く馬車
2026/04/04 17:30
第四話 灰色の城門
2026/04/04 19:30
第五話 辺境伯クラウス
2026/04/04 21:30
第六話 灰色の城の中へ
2026/04/05 07:30
第七話 侍女長ヘルミーネの歓迎
2026/04/05 12:30
第八話 リゼッテという侍女
2026/04/05 17:30
第九話 地下蔵の古い染め布
2026/04/05 19:30
第十話 茜色を染める
2026/04/05 21:30
第十一話 執務室の壁に掛かる茜色
2026/04/06 07:30
第十二話 工房になった空き部屋
2026/04/06 12:30
第十三話 旧染料園への道
2026/04/06 17:30
第十四話 野生の染料植物
2026/04/06 19:30
第十五話 藍の失敗
2026/04/06 21:30
第十六話 水と土の違い
2026/04/07 07:30
第十七話 媒染の調整
2026/04/07 12:30
第十八話 ヨハンの話す昔のこと
2026/04/07 17:30
第十九話 藍の染め直し
2026/04/07 19:30
第二十話 深い藍が染まる日
2026/04/07 21:30
第二十一話 夫の「きれいだな」
2026/04/08 07:30
第二十二話 古い布の裏の文字
2026/04/08 12:30
第二十三話 霧朝という色の名前
2026/04/08 17:30
第二十四話 リゼッテの色への目覚め
2026/04/08 19:30
第二十五話 クラウスが工房を覗く
2026/04/08 21:30
第二十六話 祈り色とは何か
2026/04/09 07:30
第二十七話 ヨハンの師匠の木
2026/04/09 12:30
第二十八話 祈り色の調合への挑戦
2026/04/09 17:30
第二十九話 季節の変わり目
2026/04/09 19:30
第三十話 婚礼の依頼
2026/04/09 21:30
第三十一話 婚礼の布を染める
2026/04/10 07:30
第三十二話 三十年ぶりの赤い婚礼
2026/04/10 12:30
第三十三話 城下町の噂
2026/04/10 17:30
第三十四話 染色を手伝う使用人たち
2026/04/10 19:30
第三十五話 ヘルミーネの夜の行動
2026/04/10 21:30
第三十六話 冬の訪れと枯れた植物
2026/04/11 07:30
第三十七話 春を待ちながら
2026/04/11 12:30
第三十八話 春の染料園
2026/04/11 17:30
第三十九話 祈り色への再挑戦
2026/04/11 19:30
第四十話 領の経費と工房
2026/04/11 21:30
第四十一話 フリッツの何気ない一言
2026/04/12 07:30
第四十二話 王都からの手紙
2026/04/12 12:30
第四十三話 色のある祭り
2026/04/12 17:30
第四十四話 監察官の訪問
2026/04/12 19:30
第四十五話 褫奪令の名のもとに
2026/04/12 21:30
第四十六話 活動の停止を
2026/04/13 07:30
第四十七話 染めることをやめられない
2026/04/13 12:30
第四十八話 クラウスの沈黙
2026/04/13 17:30
第四十九話 ここにいていいのか
2026/04/13 19:30
第五十話 ヘルミーネの「だから言ったでしょう」
2026/04/13 21:30
第五十一話 書斎の古文書
2026/04/14 07:30
第五十二話 二十年の期限
2026/04/14 12:30
第五十三話 なぜ黙っていたのか
2026/04/14 17:30
第五十四話 染める人間がいなかった
2026/04/14 19:30
第五十五話 法の期限を突きつける
2026/04/14 21:30
第五十六話 この土地の色は、この土地のものだ
2026/04/15 07:30
第五十七話 領地の文化事業
2026/04/15 12:30
第五十八話 ディートリヒの退場前夜
2026/04/15 17:30
第五十九話 祈り色の復元
2026/04/15 19:30
第六十話 この色……覚えています
2026/04/15 21:30
第六十一話 先代奥方様の言葉
2026/04/16 07:30
第六十二話 城全体が動く
2026/04/16 12:30
第六十三話 国王への贈答品
2026/04/16 17:30
第六十四話 あなたの仕事を、一番大切なものに
2026/04/16 19:30
第六十五話 俺はずっと灰色しか知らなかった
2026/04/16 21:30
第六十六話 褫奪令の正式撤回
2026/04/17 07:30
第六十七話 グラウエン支部の復活
2026/04/17 12:30
第六十八話 三十年かけて育った木の実
2026/04/17 17:30
第六十九話 グラウエンだけの色
2026/04/17 19:30
第七十話 あなたに付けてほしいの
2026/04/17 21:30