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夫は色の名前をひとつも知りませんでした。けれど私が染めた布を、一枚も手放しませんでした  作者: ヲワ・おわり


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第四十六話 活動の停止を

翌朝、机の上に書面が置かれていた。


リゼッテが「昨夜のうちに、ディートリヒ様からお届けがあったようで」と言った。白い封蝋の付いた折り畳まれた書類だ。


「大丈夫ですか」とリゼッテが言った。


「開けてみれば分かります」


書斎で読んだ。


丁寧な文言が並んでいた。「法令に基づき」「正式な手続きとして」「辺境伯夫人の御理解を」——どれも礼儀正しく、威圧的な言葉は一切ない。そして最後に。


「七日以内に、停止の確認書類へのご署名をお願いします」


七日。


工房に行った。


染め途中の布が乾燥台にある。昨日の作業の続きだ。染料が半分入っているが、まだ色が浅い。このまま放置すれば、色が定着せずに終わる。


「七日……」という言葉が頭に残った。


夕食で、ディートリヒが隣に座った。


「召し上がっていますか。旅の途中で食事が合わないと体に障りますので」


「食べています」


しばらく沈黙があった。


「私は、あなたの仕事を評価しています」とディートリヒは言った。声は穏やかだ。「グラウエンの染色文化の復元は、文化的に意義深い。個人として、そう思います」


「ありがとうございます」


「しかし、法は法です」


「あなたが評価するかどうかは関係ありません」


言葉が自然に出た。


ディートリヒが少し動いた。驚いたのではなく、興味を持った時の動きだ。


「では、何が関係あると?」


「この土地の人々が、三十年間何を待っていたか。婚礼に赤い布を持てなかった人が、何十人いたか。老婆が三十年ぶりの赤を見て泣いたこと——そういうことが関係あります」


ディートリヒは沈黙した。


「……あなたは職人だ」と、しばらくして言った。


「そうです」


「法と職人の論理は、別の基準で動く。理解はできます」


「でも?」


「でも、私にはどちらが正しいかを判断する権限がありません。法の執行者として来ていますので」


食事が続いた。


「七日以内に、ということです」


「……承知しました」


工房に戻ったのは夜だった。


染め途中の布が、乾燥台にある。


「この布はまだ、完成していない」とイレーネは思った。


答えが出ていない。でも、何かが胸の中にある。


やめる理由は、分かる。


やめてはいけない理由も、分かる。


「ただ——」という言葉の続きが、まだ見つからなかった。

次話も更新されます。引き続きよろしくお願いします。

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