第六十七話 グラウエン支部の復活
認可が来たのは、数日後だった。
「染色師組合グラウエン支部——三十年ぶりの復活」
フリッツが書類を読み上げた時、工房の中で誰も言葉を言わなかった。ヨハンが桶を持ったまま止まった。リゼッテが布を抱えたまま止まった。
「初代支部長——イレーネ・フォン・グラウエンベルク」
「……」
「奥方様?」とリゼッテが言った。
「……今、なんと」
「初代支部長です」とフリッツは繰り返した。「この申請は辺境伯様が書類を整えてくださいました。奥方様が実際に活動をされているという実績と、グラウエン支部の歴史的な記録を合わせて申請したそうです」
「支部長……」
言葉を口の中で転がした。支部長。グラウエン支部の支部長。初代。三十年間なかった支部の、最初の長。
「おめでとうございます、支部長」とヨハンが言った。
「……ヨハン」
「支部長と呼ばせてください」とヨハンは続けた。静かな声だった。「この日が来ると思っていました。時間はかかりましたが」
「ヨハンさんのおかげです」
「いいえ」とヨハンは言った。「奥方様が来てくださったおかげです」
リゼッテが「おめでとうございます」と言った。声が少し詰まっていた。
ヘルミーネが工房の入り口に来ていた。
「先代奥方様も」とヘルミーネは言った。「お喜びでしょう」
ヘルミーネらしい言葉だった。直接に喜びを言わない。でも先代奥方様を持ち出したのは、それがヘルミーネの喜びの言い方だということが、今は分かった。
「支部長……」
また言葉を繰り返した。
「グラウエンの染色師として、ここに残る」という形が、今日初めて具体的になった。肩書きがついた。初代という重さがついた。この土地の染色の歴史の、復活の最初の人として名前が記録される。
「……染色師として、ここで生きていける」という確信が来た。
「後継者も育てられますね」とリゼッテが言った。嬉しそうな声だった。
「後継者」
「グラウエンの染色師を——次の世代に伝えられる。支部ができれば、弟子も取れます」
後継者。弟子。次の世代。
「わたしは——ここに根を張っていくのだ」
胸の中で、言葉になった。グラウエンに来たのは政略結婚だった。染色の許可を得て、工房を作って、少しずつ色を戻してきた。でも今日、この土地で育ち続けることが——形になった。
夕方、ヨハンが工房の外から声をかけた。
「奥方様——あの木を見てください」
庭に出た。師匠の木の前に立った。
枝先の実が、大きくなっていた。熟しつつある。
「来年は、この実で染めましょう」とヨハンが言った。
「来年、ですね」
「来年も、ここにいてください、支部長」
ヨハンがそう言って、木を見た。
「もちろん」とイレーネは答えた。
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