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夫は色の名前をひとつも知りませんでした。けれど私が染めた布を、一枚も手放しませんでした  作者: ヲワ・おわり


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第四十二話 王都からの手紙

春祭りの準備が始まっていた。


「今年は少しだけ、色を使っていいですか」とクラウスに頼んだ。


返答は短かった。「……今年は色のある祭りにする」


それを聞いた時、胸に温かいものが来た。色のある祭り。クラウスが自分でそう言った。


工房で布を選んだ。茜色、藍色、刈安の黄。まだ三色しか揃っていないが、それを旗として仕立てた。城の広場の柱に掛ける小旗だ。


「三色でも、全然違いますよ」とリゼッテが言った。


「少しだけ、戻ってきた感じがします」


手紙が来たのは、その翌日だった。


母のマルガレーテからだ。文字が少し乱れている。急いで書いたのが分かる。


「グラウエンで染め物が戻ってきたという話を、王都の社交界で耳にしました。あなたがやっているのですか?」


「誇らしいですが——気をつけてください。あの土地の事情には、政治的な背景があります。王都には、あの地の色の復元を快く思わない人がいます」


「詳しいことは手紙では書けません。ただ、何かあればすぐに知らせてください」


政治的な背景。


染め物が政治と結びついているとは、考えていなかった。いや——考えなかったわけではない。ヘルミーネの「昔のことを掘り起こすな」という声も、城下町の反対意見も、何かが背景にあると感じていた。


でも「政治的な背景」という言葉で来ると、重さが違う。


クラウスを探して廊下で見つけた。


「王都での噂について、ご存知のことがあれば聞かせていただけますか。母から手紙が来て——グラウエンを快く思わない人が王都にいると」


クラウスは少し間を置いた。


「……知っている」


「では——」


「今は問題ない」


「問題ないというのは……」


「今は問題ない」


三回目の繰り返しで、これ以上は教えてもらえないと分かった。


クラウスは嘘をついていない。でも「今は」という限定がある。「今は」問題ないのなら、後でどうなるのか。


部屋に戻って母への返事を書いた。


「グラウエンで少しずつ色を取り戻しています。夫がそれを許可してくれています。何かあれば知らせます」


書きながら、「何かあれば」という言葉が重かった。


何かが起きるかもしれない、という予感は、母の手紙よりも前から——クラウスの態度のどこかから、来ていた。

次話も更新されます。引き続きよろしくお願いします。

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