表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『彼女は家族同然なんだ』と繰り返すあなたへ。では、私は婚約者を辞めます

最終エピソード掲載日:2026/05/25
扇を閉じる音は、夜会では誰の耳にも届かない。

それでも私は、夜会の控えで、その音を確かに数えてきた。

婚約者の隣の席。

私のために用意されたはずの、その一席を、別の令嬢に譲った回数。

三十二回。

三年の婚約期間で、ちょうど三十二回だった。

婚約者は、いつも同じ言葉でそれを願う。

「彼女は家族同然なんだ。君なら分かってくれる」

家族同然のその令嬢が、また馬車寄せに着いた夜のことだった。

私は、三十二回目の席を譲った。

そして、扇を閉じた。

「分かる」という言葉を、もう、続けたくなかった。

私は、自分から婚約者を辞めることを決めた。

決めた翌朝、思いがけない方から、思いがけない便が届いた。

私の三年を、私が知らない場所で、誰かがずっと数えていたのだという。

譲った席の数を、私と同じ回数で。

私は、自分の三年が、一人だけの紙の上にあったのではないことを、初めて知った。

私の三十二回を、誰が、どんな顔で、数えていたのだろう。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ