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『彼女は家族同然なんだ』と繰り返すあなたへ。では、私は婚約者を辞めます  作者: 九葉(くずは)


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19/22

第十九話 ロベルトの遅すぎた謝罪

ロベルト様の馬車が門を入る音を、私は私室の窓から聞いた。


王宮の大規模夜会から、半月が経っていた。


その半月のあいだに、社交界の動きは、目に見えて変わっていた。公爵家のご当主夫妻が揃って出席なさる催事の数が、二件、立て続けに減った。ヴァランス家への招待状は、ひと月で十五通を超えた。客人帳の新しい頁は、家令と二人で、毎週書き足している。


そして半月前、公爵夫人エレオノール様のお口から、社交界の中央で、はっきりと言葉が出ていた。「我が公爵家は、最も信頼すべき令嬢を失いました」――そのひと言は、王宮の議事の控えの紙の上にも、すでに記録されている。


ロベルト様がヴァランス家を訪ねたい、と、お父様に書状が届いたのは、昨日の朝のことだった。


「クラリス」


昨日の午後、お父様の書斎で、私はその書状を受け取った。


「お父様」


「ロベルト様から、明日の午後、ヴァランス家への面会の希望が届いた。ご当主の名前を経由せず、ロベルト様ご自身の名で、書状を送ってこられた」


「公爵閣下の名前ではないのですね」


「ああ。これは、ロベルト様ご自身が、ようやく、ご自分の名で、お謝りに来られる準備が、ご自分の中で整った、ということだ」


私は、書状を、ゆっくりと卓の上に置いた。


「お父様」


「うん」


「お会いいたします」


「即答だな」


「はい」


「お前は、応接室でお会いするか、お父様の書斎でお会いするか、どちらを選ぶ」


「応接室で、お会いいたします」


私の声は、わずかに、自分でも驚くほど落ち着いていた。


「もうひとつ、お父様にお願いがございます」


「うん」


「ライナス殿下に、同席をお願いしてもよろしいでしょうか」


お父様は、書面を、机の上で軽く置かれた。


「殿下のご同席は、席の重みの置き方として、はっきりしたものになる」


「はい」


「ロベルト様に、席の意味を、はっきり受け止めていただくためか」


「お父様、それも、ひとつでございます。けれど、もうひとつあります」


「うん」


「私が、ロベルト様の話を、一人で受け取って、一人で返事をするのは、もう、私には、しなくてもよろしい、と、思いました」


「クラリス」


「殿下がご同席なさるのは、私が、私の判断を、誰かと一緒に下す、ということではございません。殿下の席が、私の隣にあることで、私は、一人で立つのではない、ということを、ロベルト様にも、私自身にも、確かめたいのです」


お父様は、しばらく、私の顔を見ていらした。


それから、わずかに微笑まれた。


「殿下にお伺いを差し上げよう。ご公務の席ではないので、お返事がいただけるかどうかは、殿下のご判断だ」


「お父様、ありがとうございます」


その晩のうちに、お父様の書斎からライナス殿下へ、私的のお伺いの書状が送られた。


返事は、翌朝、いつもより早い時間に届いた。


「ヴァランス侯爵閣下


お伺いの件、承知いたしました。


ご公務の場ではないご訪問に、私が同席するのは、社交界の側で、席の意味を、わずかに重くいたします。


その重みを、クラリス嬢が、ご自分の側から求めてくださっているのであれば、私は、席の隣に立たせていただきます。


判断と発言は、最後まで、クラリス嬢にお委ねいたします。


午後、お時間に合わせて、ヴァランス家に伺います。


ライナス・グレオール」


短い返事だった。


殿下は、ご公務の場ではないことを、はっきりとご承知のうえで、席の隣に立つ、と決めてくださった。


そして、判断と発言は、最後まで、私に委ねる、と書いてくださった。


ロベルト様の馬車が、ヴァランス家の門を入った。


その音を、私室の窓辺で聞いていた私は、立ち上がって、応接室のほうへ向かった。


廊下で、家令と行き合った。


「お嬢様」


「ありがとう」


「殿下は、十分ほど前に、お父様の書斎にお着きでいらっしゃいます」


「先に、お父様の書斎へ伺います」


私は、お父様の書斎へ入った。


殿下は、お父様の机の手前の席に腰を下ろしていらした。衣装は、ご公務の席のものではなく、身軽な普段のものだった。お父様も、応接の場のための堅い衣装ではなく、いつもの書斎着のままでいらした。


「殿下、お越しくださり、ありがとうございます」


「クラリス嬢」


殿下は席を立たれた。


「席の重みを、一段、軽くしたく、私の衣装も、ご公務の格ではないものにしてまいりました」


「殿下」


「席で話が長くなる場合、席の時間に疲れが出ないように、ご公務の衣装ではないほうが、よろしいかと存じます」


殿下の声は、低く、落ち着いていらした。


私は深く頭を下げた。


「お父様、殿下。応接室に、ロベルト様をお通しいたします。席の支度が整いましたら、声をおかけいたします」


「うん」


私は応接室へ向かった。


応接室で、家令がロベルト様をすでに通していた。


ロベルト様は、ソファに腰を下ろしていらした。衣装は、夜会の時の落ち着いた藍色ではなく、初夏の昼の濃灰色の上着だった。顔の色は、半月前に夜会でお会いした時より、わずかに痩せていた。


「クラリス嬢」


ロベルト様は、私の姿を見るなり、席を立たれた。


「ロベルト様、お越しくださり、ありがとうございます」


私は深く頭を下げた。


ロベルト様も、深く頭を下げられた。


それは、これまで婚約期間中に、ご自分の席で、私に対して下げたどのお辞儀よりも、深いお辞儀だった。


「クラリス嬢」


「ロベルト様」


「席につく前に、ひとつだけ、お伝えしたい」


「はい」


「本日、ご面会の場に、ライナス殿下が同席なさる、と、家令から伺いました」


ロベルト様の声は、わずかに固くなった。


「殿下のご同席は、覚悟しております。私の側からも、席の場の意味を、深く受け止めて、お話しに参りました」


「ロベルト様」


「私の側で、ご公務ではないご訪問に、王家の席が同席することが、社交界で、どのように受け止められるか、すでに承知しております」


ロベルト様は、もう一度、深く頭を下げられた。


「それでも、本日、お会いいただけることに、感謝申し上げます」


「ロベルト様、ようこそお越しくださいました。席にお進みください」


私は、ロベルト様に席を勧めてから、家令に、お父様と殿下を呼ぶよう、頼んだ。


少し経って、お父様と殿下が、応接室にお入りになった。


殿下は、応接室の入口で、ロベルト様に頭を下げた。


「モンフォール公爵令息」


「殿下、お忙しいところを、お席を頂戴し、ありがとうございます」


ロベルト様は、席を立って、深く頭を下げられた。


殿下は、お父様の隣の席に腰を下ろした。私は、お父様と殿下の側の、もうひとつの席に腰を下ろした。


応接室の中で、家令が紅茶を運んできた。


紅茶のカップが、それぞれの前に置かれた。


ロベルト様は、紅茶のカップを手に取らなかった。両手は、膝の上で、一つに重ねていらした。


「クラリス嬢」


ロベルト様の声は、応接室の中で、静かに落ちた。


「はい」


「ヴァランス侯爵閣下、ライナス殿下にも、伺っていただきたく存じます」


「うん」


「殿下」


殿下は、わずかに頷かれた。


「本日、僕がこちらに伺いましたのは、お謝りに上がる、ということでございます」


ロベルト様は、席の中で、背中をまっすぐにされた。


私的の場であることを、ロベルト様ご自身が、一人称を「私」から「僕」に変えて、はっきり示された。


「クラリス嬢、三年の婚約期間中、僕は、一席ずつ、あなたに席を譲っていただいてまいりました。譲っていただいた回数は、三十二回、と、先日、ヴァランス侯爵閣下の席で、ご令嬢の口から、初めて伺いました」


「はい」


「僕は、その三十二回を、クラリス嬢に数えさせていたのです」


ロベルト様の声は、わずかに震えた。


「クラリス嬢が、一席ずつ数えていたのを、僕は、ようやく、自分の側で受け止めました」


「ロベルト様」


「クラリス嬢、申し訳ございませんでした」


ロベルト様は、席の中で、深く頭を下げた。


応接室の中で、しばらく、紅茶の湯気だけが、静かに上がっていた。


私は、紅茶のカップを、手に取らなかった。


「ロベルト様」


「はい」


「お謝りの言葉、頂戴いたしました」


「クラリス嬢」


「ロベルト様、ひとつだけ、伺ってもよろしいでしょうか」


「はい」


私は、席の中で、背中をまっすぐにした。


「ロベルト様の書斎の机の上に、一年、開かれないままで置かれていた覚書がございました」


ロベルト様の顔が、わずかに止まった。


「ロベルト様、ご記憶ですか」


「はい」


「先日、公爵閣下が、ヴァランス家にお越しくださって、その覚書を、私に返してくださいました」


「はい」


「ロベルト様は、なぜ、その覚書を、一年、お開きにならなかったのですか」


応接室の中で、ロベルト様の息が、わずかに止まった。


ロベルト様は、しばらく、紅茶のカップに目を落としていらした。


「クラリス嬢」


「はい」


「あなたの手の覚書で、席組みの仕方、贈答の品の格付け、招待状の格、それらが、整え書きされていた、というのは、机の上で一度開いた時に、僕には見えました」


「一度は、お開きになったのですね」


「はい」


「一度開いただけで、その後は、続けなかった」


「はい」


「なぜ、続けなかったのですか」


ロベルト様は、しばらく、紅茶のカップを見ていらした。


「クラリス嬢」


「はい」


「あなたの手の書きを、一席ずつ、自分の側で読み直すと、一席のことが、見えてしまうのです」


「一席のこと、ですか」


「あなたの手の書きで、席組みが、リーゼの席を、お母様の代わりの席に置き続けることで、続いていた、ということが、見えました」


ロベルト様の声は、わずかに低くなった。


「僕が、あなたの手の書きを、続けて読んでいくと、リーゼのお母様の代わりの席を、僕が、あなたの席の紙の上で、続けて頼んできたことが、見えてしまうのでございました」


「ロベルト様」


「僕は、机の上で、一度開いて、それから、続けて読むことが、できないままでいました」


ロベルト様の声は、わずかに途切れた。


「机の上で、続けて眠らせたままにしていたのは、僕が、見たくない、ということでございました」


応接室の中で、紅茶のカップの湯気が、ゆっくりと薄くなっていた。


「クラリス嬢」


「はい」


「あなたの席の仕事を、僕は、見ない、ということを、一年、続けてまいりました」


ロベルト様は、席の中で、もう一度、深く頭を下げた。


「申し訳、ございませんでした」


私は、紅茶のカップを、ようやく手に取った。


紅茶は、まだ温かかった。


「ロベルト様」


「はい」


「見ない、ということを、一年続けていらしたのが、ロベルト様の側の、いちばん重い落ち度でいらした」


「クラリス嬢」


「見ない、ということで、私の三年が続いていたのが、私が、最後に降りることに、つながりました」


「クラリス嬢」


「ロベルト様」


「はい」


私は、紅茶のカップを、卓の上に軽く戻した。


「お謝りの言葉、お受けいたします」


ロベルト様の顔が、わずかに上がった。


「けれど、ロベルト様」


「はい」


「お謝りの言葉をお受けすることと、席に戻ることは、別の話でございます」


応接室の中で、ロベルト様の目が、わずかに動いた。


「クラリス嬢」


「ロベルト様、私は、もう、戻りません」


私の声は、応接室の中で、静かに落ちた。


ロベルト様は、頭を、わずかに下げた。


「クラリス嬢」


「はい」


「戻っていただくことを、僕は、求めに参ったのではございません」


「ロベルト様」


「お謝りに参ったのでございます。戻りの話を、求めに参ったのではございません」


ロベルト様の声は、わずかに震えた。


「クラリス嬢、戻りを求めないで、本日、席に伺いました」


「ロベルト様」


「戻りの話が、僕が、あなたの席の仕事を、見ないままでいたことの、続きになる、と、僕は、自分の側で分かりました」


「ロベルト様」


「ご令嬢から、戻らない、と、はっきりおっしゃっていただくことで、僕は、自分の側で、見ないままでいたことに、ようやく、向き合うことに入ります」


ロベルト様は、深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


応接室の中で、しばらく、誰も、言葉を入れなかった。


殿下は、席の中で、黙っていらした。


お父様も、黙っていらした。


ロベルト様が、ご自分の口で、「戻りの話を、求めに参ったのではない」と、はっきり言葉を入れていらした。


それは、ロベルト様が、私の側の判断を、最後まで尊重なさる、一席の言葉だった。


「ロベルト様」


「はい」


「ひとつ、伺ってもよろしいでしょうか」


「はい」


「リーゼ様の席は、今、いかがでいらっしゃいますか」


ロベルト様の口元が、わずかに動いた。


「リーゼは、先の席で、ヴァランス家に伺った、と、聞きました」


「はい」


「リーゼが、自分の口で、お母様の代わりの席を止める、と、僕に伝えました」


「左様でございますか」


「リーゼが、お母様の代わりの席を、僕に頼まないところに進んでいる、ということでございます」


ロベルト様は、紅茶のカップを、ようやく手に取った。


「僕が、リーゼに、お母様の代わりの席を、続けて整えていたことで、リーゼが、一人で席を選ぶのが、一年、遅うございました」


「ロベルト様」


「リーゼが、本月、ボーモン家のお茶会の席を、自分で組まれた、と、聞きました」


「はい」


「ボーモン家として、リーゼが、一席ずつ、正しい席に戻っていらっしゃる、ということでございます」


ロベルト様の口元が、わずかに微笑になった。


それは、一席の、疲れた微笑だった。


「クラリス嬢」


「はい」


「リーゼが、自分の手で席を選ぶところに入っていたのが、あなたの席の仕事に続いていた結果でいらした、と、僕は、ようやく分かりました」


「ロベルト様」


「あなたが、席の仕事を続けて整えていらしたことで、リーゼが、自分の手で席を選ぶところに入っていたことで、僕は、席の上で、居場所を失いました」


「ロベルト様」


「それも、僕の、当然のことでございます」


ロベルト様は、紅茶のカップを、卓の上に軽く戻された。


「クラリス嬢」


「はい」


「僕が、お母様の代わりの席を、続けて整えていたのは、僕の、居場所の作り方でいらした、と、今、分かりました」


「ロベルト様」


「リーゼに、お母様の代わりの席を、続けて整えることで、僕は、居場所を一席、持っていたのでございました」


ロベルト様の声は、わずかに途切れた。


「ご令嬢の、席の仕事で席を整えていたことに、僕は、居場所を、長く、依存していたのでございました」


「ロベルト様」


「ご令嬢が降りて、リーゼが、自分で席を選ぶところに入って、僕は、居場所を失いました」


「ロベルト様」


「それは、僕の、一席の、学びでございます」


ロベルト様は、深く頭を下げた。


応接室の中で、紅茶の湯気が、もう、ほとんどなかった。


「ロベルト様」


「はい」


「居場所が、見つかりますように」


私の声は、短く、応接室の中に落ちた。


ロベルト様は、わずかに頭を上げた。


「クラリス嬢」


「はい」


「お言葉、頂戴申し上げます」


ロベルト様は、席を立たれた。


応接室の入口で、もう一度、深く頭を下げた。


「ヴァランス侯爵閣下、ライナス殿下、お席を頂戴し、ありがとうございました」


「うん」


殿下は、席のままで、わずかに頭を下げた。


ロベルト様は、応接室の入口で、もう一度、私に向き直って、深く頭を下げた。


「クラリス嬢」


「ロベルト様」


「お幸せに、おなりください」


その短い言葉のあとで、ロベルト様は、応接室を出られた。


家令が、玄関まで見送りに出た。


応接室の中で、お父様と殿下と、私と、紅茶のカップだけが残った。


馬車の車輪の音が、ヴァランス家の門の外で、ゆっくりと遠ざかっていった。


「クラリス」


お父様は、紅茶のカップを、卓の上に軽く戻された。


「お父様」


「お前は、応接室の扉を、自分で閉めなさい」


「お父様」


「お謝りの言葉をお受けすることと、席に戻らないことは、別の話だ。お前が、応接室の扉を、自分で閉めることが、その別の話の、区切りになる」


私は深く頷いた。


家令が、お父様と殿下に、紅茶をもう一度淹れ直すために、応接室を出た。


私は、応接室の入口に立った。


応接室の扉は、家令が、ロベルト様を見送りに出た時から、半分ほど開いていた。


私は、扉の手に手をかけた。


ゆっくりと、自分の手で、扉を閉めた。


扉の閉まる音は、応接室の中で、小さく響いた。


夜会で扇を閉じた音よりも、席の重みのある音だった。


応接室の中に戻ると、お父様と殿下が、紅茶のカップを、手に取っていらした。


「クラリス嬢」


殿下の声は、いつもより、短かった。


「殿下」


「席で、一席ずつ、続けて務めていただいたことで、本日の席が整いました」


「殿下、席で見守りいただきました、ありがとうございました」


殿下は、わずかに頷かれた。


「席で、言葉を入れることが、一度もございませんでした」


「殿下、見守りいただいたことが、私が、席で、一席ずつ続けて話を続けるのに役に立ちました」


「クラリス嬢の席の決断は、見事でいらした」


殿下の声は、短かった。


けれど、声の奥に、席で、一席ずつ見ていた、深い見守りが入っていた。


「お父様」


「うん」


「ロベルト様が、最後に、『お幸せに、おなりください』と、言葉を入れてくださいました」


「ああ」


「あの言葉は、一席の、区切りの言葉でございました」


「だな」


お父様は、紅茶のカップを、卓の上に軽く戻された。


「クラリス」


「はい」


「お前が、応接室の扉を、自分の手で閉めたことで、席の区切りが、一席、整った」


「お父様」


「お前は、席で、一席ずつ続けて務めなさい」


私は、深く頭を下げた。


その晩、書斎で、私は、客人帳の頁を開いた。


ヴァランス家の客人帳の本月の席に、ロベルト様の、本日の訪問を、一席書き加えた。


「モンフォール公爵令息ロベルト様、ご私的訪問。お話の中身、お謝りのこと。席で、区切りの確認。」


その下に、一行だけ、短く書き足した。


「席で、戻りの話には、出ない、と確認。」


書斎の窓の外で、初夏の遅い夜の空気が、ゆっくりと深くなっていた。


書斎の扉を、軽く閉めた。


応接室で、自分の手で扉を閉めた音が、まだ、自分の中で響いていた。


その音は、夜会で扇を閉じた音よりも、ずっと重く、確かな音だった。


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