『大正の迷ゐ子』
最新エピソード掲載日:2026/11/04
大正十年、春。
地方新聞社に勤める久世文彦、二十六歳。
新聞記者として人々の暮らしや世相を取材する毎日を送りながら、彼にはもう一つの夢があった。
それは、小説家になること。
敬愛する尾崎紅葉の『金色夜叉』に心を奪われて以来、いつか自分も人の心に残る物語を書きたいと願っていた。しかし、書きかけの原稿ばかりが増え、いまだ世に出せる作品はない。
そんな文彦が、春祭りの取材先で出会ったのは、旅芸人一座に身を置く青年、朝倉新太だった。
新太は二十二歳。明るく、人懐っこく、食べることが大好きな青年である。初対面の相手ともすぐに打ち解け、旅先での暮らしにも慣れている。
しかし、彼には一つだけ、人にうまく説明できない過去があった。
五歳の頃、家族と離れ、旅芸人の一座に拾われたというのだ。
自分の名前が朝倉新太であることは知っている。幼い頃から持っていた根付に、その名が刻まれていたからだ。
ところが、その根付には、もう一つの名前が刻まれていた。
「ふさ」
新太には、それが誰の名前なのか分からない。
自分はどこで生まれ、誰の子として育ったのか。そして「ふさ」とは、いったい誰なのか。
文彦は、この青年の話に小説の題材としての面白さを感じる。
新聞記者として事実を追い、小説家志望として物語を思い描く。二つの好奇心に背中を押され、文彦は新太の過去を調べ始める。
やがて二人は、根付に刻まれた名前を手掛かりに、知らない土地へと旅立つことになる。
旅の途中で出会う人々、思いがけない出来事、古い記録、そして新太の幼い頃を知るかもしれない人々。
文彦は新聞記者として証言や記録を確かめながら、作家としてその出来事をどう書くべきか悩んでいく。
一方、新太にとって旅は、単なる過去探しではなかった。
自分を育ててくれた旅芸人一座の人々もまた、大切な家族だったからだ。
生まれた場所がふるさとなのか。それとも、自分を受け入れ、育ててくれた場所こそがふるさとなのか。
記憶の向こうにある過去を探す青年と、物語の向こうにある真実を探す新聞記者。
二人の旅は、やがて思いがけない出会いへとつながっていく。
これは、失われた記憶をたどる青年と、まだ自分の物語を見つけられない作家志望の新聞記者が、明治の面影を残す大正の日本を歩いた、少し不思議で、どこか懐かしい道中記である。
プロローグ 思いがけない、出逢い 改訂版
2026/11/04 21:33
(改)
第一話 迷い子
2026/11/04 15:02
第二話 聴く事の始まり
2026/11/04 15:23
第三話 旅の理由
2026/11/04 15:52
第四話 旅立ち
2026/11/04 16:07
第五話 小田原の町
2026/11/04 17:42
第六話 辿る、想い出
2026/11/04 17:52
第七話 写真の裏に残されたもの
2026/11/04 18:09
第八話 写真師の弟子
2026/11/04 18:19
第九話 紙面に残る足跡
2026/11/04 18:41
第十話 古い帳面
2026/11/04 18:50
第十一話 古い住所を訪ねて
2026/11/04 18:59
第十二話 舞台の向こう
2026/11/04 19:07
第十三話 春の空
2026/11/04 19:18
第十四話 宮ノ下に残された手紙
2026/11/04 20:52
第十五話 「ありがとう」を、云いたい日
2026/11/04 21:07
エピローグ
2026/11/04 21:40