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「一度も愛したことはない」と仰った方に、渇いた領地をお返しいたします

最終エピソード掲載日:2026/08/01
結婚二十年目の朝。
夫は、一度も愛したことはないと告げた。

マグダレーナは、書きかけの数字から目を上げなかった。

彼女は二十年、この辺境の水を配ってきた。

雪の量を数え、堰を開ける日を決める。

その仕事を、夫は趣味の帳面と呼んだ。

二十年、彼女の名は、どの書類にも載らなかった。

台帳には、数字がすべて書いてある。
けれど、いつ開けるかだけは書いていない。

それは二十年、彼女の頭の中にしかない。
彼女は離縁を選ぶ。
慰謝も持参金も求めない。

ただ、水にかかわる一切を返上すると告げた。
帳面を渡し、鍵を外す。
最後に残したのは、日付だけだった。

雪解けは、四十日後です。

紙に書けることは、すべて書いてお渡ししました。
書けなかったものは、誰の手にも渡らない。

四十日後、この土地に何が起きるのか。
そのとき彼女は、どこで誰の隣にいるのか。
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