十年、妹の名前で刺繍を納めていました
最終エピソード掲載日:2026/07/31
刺したのは私で、名前は妹のものでした。
十年、そうやって王都へ納めてきました。
代金は家に入り、客は刺し手を知りません。
控えには、刺した者を書く欄がありません。
欄がないので、家は嘘をつかずに済みます。
私はそれを、当たり前だと思っていました。
けれど布には、指の癖が残ります。
四分の間に何針か。それだけで手は見分けられます。
花の中心の返し縫いを、私は三段にします。
妹の婚約が決まった夜、父はこう言いました。
これでもう、お前の手は要らないな。
翌朝、私は針を置きました。
年に二度、宮廷の買付方が検分に来ます。
その人が指を止めたのは、花の中心でした。
この花芯を刺したのは、どなたですか。
家は、その問いになんと答えるのでしょう。
私は、答えてよい立場なのでしょうか。
名前のない手は、いつまで名前を持たないのでしょう。
十年、そうやって王都へ納めてきました。
代金は家に入り、客は刺し手を知りません。
控えには、刺した者を書く欄がありません。
欄がないので、家は嘘をつかずに済みます。
私はそれを、当たり前だと思っていました。
けれど布には、指の癖が残ります。
四分の間に何針か。それだけで手は見分けられます。
花の中心の返し縫いを、私は三段にします。
妹の婚約が決まった夜、父はこう言いました。
これでもう、お前の手は要らないな。
翌朝、私は針を置きました。
年に二度、宮廷の買付方が検分に来ます。
その人が指を止めたのは、花の中心でした。
この花芯を刺したのは、どなたですか。
家は、その問いになんと答えるのでしょう。
私は、答えてよい立場なのでしょうか。
名前のない手は、いつまで名前を持たないのでしょう。
第1話 これでもう、お前の手は要らないな
2026/07/31 12:03
第2話 この花芯を刺したのは、どなたですか
2026/07/31 12:03
第3話 下絵は置いていきません
2026/07/31 12:04
第4話 四分の間に、五針
2026/07/31 12:04
第5話 王都の帳面から消えた家名
2026/07/31 12:04
第6話 断ってくださって構いません
2026/07/31 12:04
第7話 刺した方と取引したい
2026/07/31 12:04
第8話 この控えの十年分
2026/07/31 12:04
第9話 私が針を置いた月から
2026/07/31 12:04
第10話 花芯を、もう一度
2026/07/31 12:04