からだのことば ─ 体の声がきこえる ─
最新エピソード掲載日:2026/07/16
血液が、体の外を流れている。
透明なチューブの中を、赤い液体がゆっくりと巡っている。東崎総合病院・血液浄化センター。十六床のベッドに、十六人の患者がいる。それぞれの腕に針が刺さり、それぞれの血液が機械を通って、また体に戻っていく。週に三回、一回四時間。この機械がなければ、彼らは生きていられない。
その機械を動かすのが、臨床工学技士だ。
新人CE・柏木陽介は、入職初日に扉の前で三分間立ち尽くした。「三分も?」と同期の三浦桜に突っ込まれながら、ようやく扉を開ける。瞬間、複数の匂いが来た。機械の唸り。アラーム音。チューブの中を流れる赤。そして「なくてはならん仕事や」と右手を振る、透析歴十二年の田中さんの笑顔。
先輩CE・真田浩二は怖い。口が悪く、褒めない。しかし患者の前では誰よりベッドサイドを離れない。初日に彼は言った。「生化学を知らないCEは、地図を持たずに工場の中を歩き回っているのと同じだ」
地図とは何か。体という工場の、細胞レベルの地図。なぜ血液は体の外に出られるのか。腎臓は本当は何を守っているのか。カリウムが上がると、心臓に何が起きるのか。pH7.08という数字の向こうで、患者の体の中では何が起きているのか。
養成校で習った生化学の知識が、透析室の患者たちの声と数字に触れるたびに、別の顔をして立ち上がってくる。論理で考える陽介と、感覚で核心に触れる桜。凸凹の二人が、真田の背中を追いながら、体の言語を少しずつ手に入れていく。
体は、黙っていない。
血液の中に数字を置き、信号を出し、化学反応で語り続けている。その声が聞こえるようになったとき、機械の向こうにいる人間が、初めて見えてくる。
臨床工学技士の仕事と生化学の知識が、患者の生きた声と繋がっていく医療お仕事小説。
透明なチューブの中を、赤い液体がゆっくりと巡っている。東崎総合病院・血液浄化センター。十六床のベッドに、十六人の患者がいる。それぞれの腕に針が刺さり、それぞれの血液が機械を通って、また体に戻っていく。週に三回、一回四時間。この機械がなければ、彼らは生きていられない。
その機械を動かすのが、臨床工学技士だ。
新人CE・柏木陽介は、入職初日に扉の前で三分間立ち尽くした。「三分も?」と同期の三浦桜に突っ込まれながら、ようやく扉を開ける。瞬間、複数の匂いが来た。機械の唸り。アラーム音。チューブの中を流れる赤。そして「なくてはならん仕事や」と右手を振る、透析歴十二年の田中さんの笑顔。
先輩CE・真田浩二は怖い。口が悪く、褒めない。しかし患者の前では誰よりベッドサイドを離れない。初日に彼は言った。「生化学を知らないCEは、地図を持たずに工場の中を歩き回っているのと同じだ」
地図とは何か。体という工場の、細胞レベルの地図。なぜ血液は体の外に出られるのか。腎臓は本当は何を守っているのか。カリウムが上がると、心臓に何が起きるのか。pH7.08という数字の向こうで、患者の体の中では何が起きているのか。
養成校で習った生化学の知識が、透析室の患者たちの声と数字に触れるたびに、別の顔をして立ち上がってくる。論理で考える陽介と、感覚で核心に触れる桜。凸凹の二人が、真田の背中を追いながら、体の言語を少しずつ手に入れていく。
体は、黙っていない。
血液の中に数字を置き、信号を出し、化学反応で語り続けている。その声が聞こえるようになったとき、機械の向こうにいる人間が、初めて見えてくる。
臨床工学技士の仕事と生化学の知識が、患者の生きた声と繋がっていく医療お仕事小説。
第1章 命の工場へようこそ
2026/05/28 18:00
第2章 食べたものの旅路
2026/06/01 18:00
第3章 身体を動かす職人たち
2026/06/04 18:00
第4章 細胞の燃料電池
2026/06/08 18:00
第5章 発電所、フル稼働
2026/06/11 18:00
第6章 脂肪との戦い
2026/06/15 18:00
第7章 息の読み方
2026/06/18 18:00
第8章 肝臓という名の工場長
2026/06/22 18:00
第9章 出口なき迷路
2026/06/25 18:00
第10章 血液が酸になる日
2026/06/29 18:00
第11章 肺と腎臓の二重奏
2026/07/02 18:00
第12章 塩と水の均衡
2026/07/06 18:00
第13章 スイッチを握る者
2026/07/09 18:00
第14章 血液が語る言葉
2026/07/13 18:00
第15章 すべては繋がっている
2026/07/16 18:00