第2話 せいぜい頑張れ!魔法人妻⭐︎エミ子!
「さあ! 変身するのじゃエミ子よ!」
「ちょっと! 今から半額セールなんですけど!?」
怪人を目の前におじさん頭の二頭身妖精に手を引かれているのは、先日魔法人妻に任命された伊藤エミ子(三十六歳)だった。
時は魔法人妻任命直後まで遡る。
♡♡♡
「では、本日から雲母町の新ヒロインは伊藤エミ子さんに決まりました。皆さん盛大な拍手を!」
公民館内にまばらな乾いた拍手が鳴る。
「あ、あはははは……」
エミ子はその場で笑顔を取り繕い苦笑いを浮かべることしかできない。
「そういうことですので、今後とも我々の町をよろしくお願いします」
そして鈴木からミラクルロッドを手渡される。
「今から伊藤さんの情報をロッドに刻んでいきますので、こちらに手を出してください」
エミ子は手を差し出すのを躊躇った。
このまま流され魔法人妻になってしまえば今の生活が一瞬で崩壊してしまうのだから。
(こ、怖い……)
差し出そうとした手が小刻みに震える。
痺れを切らしたのか、鈴木はエミ子の手にミラクルロッドを半ば強制的に握らせた。
「準備完了です」
刹那、開けていた窓から烏程のサイズの何かが飛び込んできた。
「キャー!」
「何これ! 虫!?」
「早く殺虫剤!」
慌てる奥様方に鈴木が待ったをかける。
「皆さん落ち着いてください。彼は虫でも鳥でもありません」
落ち着きを取り戻した奥様方が飛び込んできたものに視線を向ける。
「そうじゃそうじゃ! ワシはただの可愛い妖精さんじゃぞ?」
そこには可愛らしい二頭身の妖精さん……ではなく五十代半ばのおじさん頭のついた二頭身の謎生物がこちらに向かってウインクを飛ばしていた。
「気持ち悪っ!」
気が付けばエミ子の口からは素直な感想が簡潔に述べられた。
「失礼な奴じゃな!?」
謎生物はそう言うと鈴木の立つ机の前へと降り立った。
「すみませんミラ吾朗さん、彼女たちは妖精の存在をよく知らないのです」
「よ、妖精!?」
そして奥様方の視線が妖精と言われた謎の生物に集中する。
「そうじゃワシがミラクルファクトリー魔法人妻課所属の妖精来栖ミラ吾朗じゃ!」
ミラ吾朗はどこからともなく名刺を取り出し短い前足でエミ子に差し出す。
「ということで、これからワシと契約して魔法人妻になっとくれ!」
「こんな気持ち悪い妖精と契約なんて嫌よ!」
エミ子は既婚者子持ちとは到底思えない態度でミラ吾朗を突っぱねた。
「んなこと言ったってしょうがないじゃろう。これが魔法人妻に選ばれた者の宿命なんじゃから」
ミラ吾朗はそう言うとエミ子の手にフッと息を吹きかける。
その息は何処かヤニと酒臭く、エミ子は唐突すぎる不快な行動に思わず眉間に皺を寄せた。
「うわっ、何するんですか……」
その時、エミ子の手の甲が怪しく光り出す。
「これで契約は完了じゃ! ということでこれからはワシのパートナーとしてよろしく頼むぞ、魔法人妻コーラルよ」
こうしてエミ子は魔法人妻コーラルとしてお供妖精、来栖ミラ吾朗と共に怪人退治を任されることとなったのだった。
♡♡♡
「いい加減手を引っ張るのやめなさいよ! アンタが外に出てると私が近所に変な目で見られるじゃない!」
「ワシの名前はアンタじゃなくて来栖ミラ吾朗じゃ!」
「おやおやおやー? 今回の相手は思ったほど強くはなさそうだな!」
そう言いながら粘液まみれの気色の悪い腕をクネクネと動かす蛸足の怪人。
その脇には犠牲となった人々が粘液にまみれ横たわっている。
「このままだとお主の住む町はあの怪人に蹂躙され、関係のない家族まで犠牲になるのじゃぞ!?」
「それは……」
エミ子の中に家族の顔が浮かんだ。
「……わかった、私もいい加減腹を括らないといけないわね!」
エミ子は財布の入った鞄からミラクルロッドを取り出した。
「よっ! エミ子! それでこそヒロインの中のヒロインじゃ!」
「……あの、一つ聞きたいんだけど」
「なんじゃ?」
「変身て……どうすればいいの?」
その時、場の空気が一瞬にして凍った。
「はぁ……鈴木の野郎説明しとらんかったのか!」
ミラ吾朗は溜息を吐くと変身の仕方を教えてくれた。
「魔法人妻! ミラクルチェーンジ⭐︎ と叫ぶのじゃ!」
「いい歳したオバさんに妙なことを言わせようとしないで!」
エミ子はミラ吾朗に怒りをぶつける。
「仕方ないじゃろうこういうのはお決まりとして入れるべきじゃって他の連中が譲らんのじゃから」
「全く……分かったわよ、つべこべ言ってられる場合じゃないものね!」
そしてエミ子はミラ吾朗に教わった通りミラクルロッドを握ったまま教わったままを口にした。
「魔法人妻! ミラクルチェーンジ⭐︎」
するとエミ子の全身が眩い光に包まれた。
「な、何事だ!?」
白髪の混じりつつある髪はピンク色に染まり、日常生活の動きやすい纏め髪はやがて可愛らしくどこか奇抜な髪型へ変化を遂げる。
そしてエミ子が思い切り腕を振ると身体を纏っていた光はフリルいっぱいの戦闘衣装へと変貌した。
「よっと」
そして地面に着地すると同時に甲高いヒールの音がコンクリートの地面を鳴らす。
「魔法人妻参上! 魔法少女に代わってお仕置きよ!」
チュドーン! と背後で可愛らしいエフェクトが豪快にエミ子の存在感を示す。
「な、何ィ!? ま、魔法人妻だと!?」
直後狼狽える蛸足の怪人。
「この私魔法人妻コーラルが来たからにはこれ以上好きにはさせないわ! 覚悟なさい!」
そしてエミ子はミラクルロッドを胸元に構えた。
「ほおほお、少しは威勢の良さそうな人間もいたものだ。しかし! 私のこの触手から逃れられるものなどいないのだ!」
「エミ子攻撃が来るぞい!」
直後エミ子の立っている方へ怪人の触手が勢いよく伸びてくる。
「おわっ!」
エミ子は間一髪で触手を避け怪人に接近を試みる。
「そうはさせるか!」
すると今度は触手の先端から粘度のある液体を噴射した。
「避けるんじゃ!」
直後エミコのスカートの裾に粘液が付着する。
「いやー! 何これ! 衣装が溶けてるじゃない!」
「ヤツの攻撃は特殊な粘液であらゆるものを溶かすのじゃ! 次は衣装だけでは済まないぞ!」
「イヒヒヒヒヒ! 次はお前の頭にぶっかけてやる!」
すると触手の怪人は粘液を水鉄砲のように各触手から乱射を始める。
「きゃっ! 危ないじゃない!」
エミ子はそれらを全て避け続ける。
しかしこのままでは埒が開かない。
「ミラ吾朗こういう時どうすればいいのよ!?」
「それならミラクルロッドの中央のボタンを押して技を発動させるのじゃ!」
「はぁ!? そんな機能聞いてないんですけど!? 事前にもう少し説明とかしてよね!」
「そんなことはいいから早くせんと粘液でドロドロに溶かされて死んでしまうぞい!」
「このおじさん妖精め! 後で覚えてなさいよ!」
そしてエミ子は言われた通りミラクルロッドの中心にあるボタンを押した。
その時、エミ子の身体が無意識に動き始める。
「邪悪なる穴の僕達よ、とっとと穴に帰りなさい!」
その時教えてもらっているわけでもないのに技が発動する。
「魔法人妻ーサンシャイン!」
「ぎゃああああ!」
直後怪人の肉体は光に飲まれ消し炭になる。
「今日もキュートに解決!」
そして背後では清々しいほどの爆発音が町中にこだました。
「流石はワシが見込んだ甲斐のある適合者じゃな……」
これが魔法人妻エミ子、伝説の幕開けである。
to be continued……




