因数が足りない〜数学の天才教師が異世界転生確率98.7%の黄金交差点を導き出した結果、なぜか十回連続で病院送りになる件について〜
異世界転生確率は98.7%、ただし入院率も100%
■第一章 六限目■
六限目のチャイムが鳴った。
県立潮浜高校の二年三組では、条件付き確率の授業が終わろうとしていた。
数学教師の真壁透は黒板に残った式を見た。
秋の光が窓から斜めに入り、教室の床に細く伸びていた。
「先生」
後ろの席から声が上がった。
相沢陸だった。
肩までの髪を揺らし、制服のリボンを少し曲げたまま手を挙げている。
「何だね、相沢くん」
「異世界転生って、条件付き確率で出せますか」
教室の数人が笑った。
真壁はチョークを置いた。
「出せる。母集団が定義できればの話だがな」
「じゃあ、トラックに轢かれたら何パーですか」
「確実なことは一つだ。まず、轢かれる」
陸は「ですよねー」と言って、机に肘をついた。
真壁は黒板の端に小さく〈P(A|B)〉と書いた。
「確率は、起きてから考えるものじゃない。起きる前に考えるものだ」
「名言みたい」
「名言ではない。期末に出る」
チャイムの余韻が消え、生徒たちがノートを閉じ始めた。
真壁は出席簿を手に取った。
「課題は教科書百四十二ページ、問三から問七。月曜提出」
「先生、それ本当に期末に出るやつですか」
陸が鞄を肩に掛けながら聞いた。
「出る」
「じゃあ、転生してる場合じゃないですね」
「課題を出してから行けばいい」
陸は笑って、廊下を走らず歩いていった。
放課後の職員室には、コピー機の音と部活動の声が混じっていた。
真壁は机に戻り、出席簿を棚に入れた。
二年三組担任の黒岩楽が出欠簿を閉じ、隣のシマから椅子を寄せてきた。
黒岩は少し声を落とした。
「真壁先生、聞きました?」
「何をですか」
「国道の事故です。大型トラック。夕方の横断歩道」
物理教師の元木雅人が、実験器具の発注書から顔を上げた。
「またですか」
「いや、今回はちょっと変なんですよ」
黒岩は職員室の入口を見た。
誰も聞いていないことを確かめるような仕草だった。
「撥ねられた人が、見つからないらしいです」
真壁はペンを止めた。
「見つからない?」
「鞄と靴、壊れたスマホは残っていたらしいです。血痕も。でも本人がいない」
英語教師の金森沙耶が、湯呑みを持ったまま言った。
「異世界転生……ですかね」
元木は小さく笑った。
「物理的には、異世界より先に救急車ですけどね」
「夢がないですね、元木先生は」
「運動量保存則にも夢はありませんよ」
黒岩が肩をすくめた。
「でも、現場にいた人も見失ったって話なんです。救急車を呼んで、戻ったらいなかったって」
金森は湯呑みを持ち直した。
「何だかロマンありませんか」
「ロマンで実況見分はできません」
元木は発注書に判を押した。
真壁はペンを置いた。
「何か最近、多いですよね」
口にしてから、自分でも曖昧な言い方だと思った。
黒岩は「ですよね」とだけ言い、自分の席へ戻った。
真壁のスマートフォンが机の上で震えた。
投稿サイトの通知ではなかった。
画面には、校務連絡の通知だけが表示されていた。
真壁は職員室で残りのプリントを揃え、夕方の校門を出た。
帰りの電車は混んでいた。
真壁は吊革につかまり、片手でスマートフォンを開いた。
WEB小説の投稿管理画面。
作者名は〈未収束点〉。
昨夜更新した短編SFのPVは二つ増えていた。
一つは自分で確認したものだった。
ブックマークはゼロ。
感想もない。
真壁は画面を閉じかけて、ランキングを開いた。
追放。
チート。
悪役令嬢。
婚約破棄。
辺境。
スローライフ。
ざまぁ。
異世界。
転生。
トラック。
長い題名が、画面を埋めていた。
「バカバカしい」
声には出さなかった。
アパートに戻ると、真壁は鞄を床に置いた。
部屋の壁際には古い文庫本棚がある。
机に向かい、ノートパソコンを開いた。
投稿管理画面の数字は増えていなかった。
職員室で聞いた声が、頭に残っていた。
鞄。
靴。
壊れたスマホ。
血痕。
本人だけがいない。
真壁は検索窓に言葉を打った。
〈トラック事故 失踪〉
〈轢かれた 消えた〉
〈異世界転生 実話〉
画面の白い光が、真壁の眼鏡に映っていた。
■第二章 絶版星雲のかなたに■
検索結果は三十秒で見飽きた。
まとめサイト。
匿名掲示板。
短い動画。
事故現場の写真を無断で貼った記事。
「くだらん」
真壁透はそう言ったが、ブラウザを閉じなかった。
部屋の壁際には古い文庫本棚があった。
上段に背表紙の焼けた翻訳SF。
中段に日本SF。
下段に大学院時代の確率論と哲学本。
真壁にとってSFは便利な魔法ではない。
自分を肯定してくれる道具でもない。
世界の見え方を一度壊すための文学だった。
だからこそ、彼はWEB小説の投稿サイトに本格SFを書いていた。
作者名は〈未収束点〉。
量子観測と植民惑星の政治制度を扱った中編。
世代宇宙船の中で確率的にしか存在しない神をめぐる短編。
火星の閉鎖都市で記憶の所有権を争う連作。
どれも読まれなかった。
PVは低く、ブックマークは増えず、感想欄は空白だった。
最初のうち、真壁は読者のせいにした。
長文を読めない。
設定を待てない。
伏線を覚えていられない。
報酬が先に示されなければページをめくらない。
それは軽蔑というより診断に近かった。
しかし三作続けて同じ結果になると、診断の対象は少しずつ変わった。
読者が間違っている。
投稿サイトが間違っている。
時代が間違っている。
そこまでは良かった。
だが四作目が沈んだ夜、真壁は初めて別の仮説を置いた。
こちら側の関数が、間違っているのか。
彼はその仮説をすぐに消した。
代わりに、いつものサイトを開いた。
〈絶版星雲のかなたに〉
古いSF読者と時代に取り残された書き手たちが集まる場所だった。
画面の上部には色褪せた宇宙船の画像が貼られている。
掲示板の背景は黒に近い紺色で、文字は薄い灰色だった。
投稿の多くは、見慣れた嘆きだった。
「最近の読者は長文を読まない」
「タイトルで全部説明するな」
「異世界ばかりでSFがない」
「うっせー読め」
「復刊してほしい本ほど復刊しない」
真壁はそれらを読みながら、半分うなずき半分うんざりした。
どれも正しい。
そして、どれも負け惜しみだった。
同じ場所を覗いている自分も、その一人だった。
彼は投稿一覧を下へ送った。
ふと、一つの短い投稿が目に留まった。
投稿者名はパスティー。
真壁はその名前を何度か見たことがあった。
女性投稿者として扱われていたが、プロフィール欄にはほとんど何もない。
古いSFの話題にも時々現れる。
ただし、いつも少しだけ他の投稿者と温度が違っていた。
〈異世界転生ものが異常ともいえる速度で大量に書かれている。その全部が、単なる現実逃避なのでしょうか。全部が、作り話なのでしょうか。〉
〈もし、一部が違うとしたら。もし、それらの何割かが体験談の変形だとしたら。〉
真壁の指が止まった。
真壁は画面を見たまま動かなかった。
職員室で聞いた事故の話が戻ってきた。
鞄。
靴。
壊れたスマートフォン。
血痕。
本人だけがいない。
単なる現実逃避。
作り話。
体験談の変形。
もし、その中に実例が混じっているとしたら。
馬鹿げている。
そう思った。
思ったが、ブラウザを閉じなかった。
真壁は机の引き出しから方眼ノートを取り出した。
表紙に題名を書いた。
〈異世界転生発生条件に関する基礎研究〉
まず分類が必要だった。
〈肉体同伴型転移〉
肉体ごと別世界へ移動する現象。
現世側に肉体は残らない。
〈容姿維持型転生〉
転生先でも本来の容姿が維持される場合。
肉体情報、あるいは肉体そのものの移送が必要になる。
〈容姿非維持型転生〉
スライム化、性別逆転、幼児化、別種族化。
人格情報、あるいは魂だけが移動する。
この場合、現世側には肉体が残留する可能性がある。
ほとんど屁理屈だった。
だが屁理屈にも分類がある。
分類があれば表にできる。
表にできれば比較できる。
比較できれば確率に近づく。
真壁は市の統計資料を取り出し、検索結果を開き直した。
トラック事故。
失踪。
WEB小説。
異世界転生。
死亡契機。
ランキング。
ばらばらの言葉が、同じ表に入っていった。
画面の端には〈絶版星雲のかなたに〉のタブが残っていた。
真壁はパスティーの投稿をもう一度開いた。
〈異世界転生ものが異常ともいえる速度で大量に書かれている。その全部が、単なる現実逃避なのでしょうか。全部が、作り話なのでしょうか。〉
投稿時刻は午後六時六分。
偶然である。
真壁はそう判断した。
その上で、ノートの隅に書いた。
〈投稿時刻、十八時六分。要検討。〉
■第三章 黄金交差点■
真壁透は嫌っていた異世界転生ものを読み始めた。
作品としてではなく、標本としてだった。
ランキング上位作、書籍化作品、アニメ化作品、レビュー記事、個人ブログの死因一覧、読者コメント。
タイトルだけで結末まで説明している長文群。
真壁はそれらを表にした。
死亡契機因数。
転生先因数。
主人公補正因数。
追放係数。
ざまぁ発生率。
チート付与期待値。
読者報酬先出し指数。
タイトル冗長度。
エモ係数。
最初の集計で真壁は小さく眉を動かした。
交通事故は多く、およそ三割強。
過労死は一割強。
刺殺、通り魔、病死、寿命、神または管理者の手違い。
分類不能も少なくない。
だが明確なトラックは思ったほど多くなかった。
全体の一割前後。
普通ならトラック仮説は弱まる。
真壁はそう考えなかった。
トラックは多すぎるのではない。
少ないからこそ、古典因子として強い。
安易なテンプレではない。選別された門である。
彼はノートに書き、しばらく眺めた。
良い言葉だった。
次に現実側の数値を集めた。
市内の交通事故発生地点。
大型車の通行量。
物流倉庫の位置。
交差点の見通し。
曜日。時間帯。降水量。
夕方の歩行者数。
過去五年の失踪届。
投稿サイトの更新数。
数値は表計算ソフトの中で一つの地図になった。
真壁の通勤も変わった。
朝の電車。車窓の外。
国道。倉庫。信号機。横断歩道。
雨の日のブレーキ音。買い物客。大型トラックの列。
それらはもはや日常風景ではなく観測対象だった。
ある朝、職員室で真壁は方眼ノートを開いたまま席を離れた。
英語教師の金森沙耶がコピー用紙の箱を抱えて通りかかった。
机の上のノートが風で少しめくれていた。
金森は足を止め、思わず中を覗き込んだ。
〈異世界転生発生条件に関する基礎研究〉
〈容姿維持型肉体消失係数〉
〈精神転写型肉体残留係数〉
〈読者報酬先出し指数〉
〈黄金交差点〉
金森は眉を寄せた。
戻ってきた真壁に彼女はノートを指さした。
「真壁先生、これ……漢文ですか」
真壁はノートを閉じた。
「現代日本語です」
「じゃあ、なおさら怖いです」
金森はコピー用紙の箱を抱え直し、一歩だけ下がった。
「……見なかったことにします」
「助かります」
「助かるんですか」
「助かります」
金森は困った顔で自分の席へ戻っていった。
職員室はいつも通りだった。
電話が鳴りプリンターが紙を吐く。
誰かが部活動の鍵を探し、元木雅人が実験器具の発注書に印を押している。
その中で真壁のノートだけが別の重力を持ち始めていた。
数日後、真壁はついに式を書いた。
〈T=異世界転生期待値〉
彼は因数に記号を振った。
〈I=交通衝撃係数〉
〈M=失踪未確認率〉
〈N=テンプレ適合率〉
〈L=タイトル冗長度〉
〈R=読者報酬先出し指数〉
〈S=現実満足度〉
〈B=容姿維持型肉体消失係数〉
〈P=精神転写型肉体残留係数〉
〈E=エモ係数〉
式はこうなった。
〈T={I×M×N×L×R×B×E}÷S+P〉
醜い式だったが使いものにはなる。
真壁はEの欄で一度ペンを止めた。
定義できない。
測定できない。
比較できない。
彼は欄外に書いた。
〈E=測定不能。暫定的に一とする。〉
それで十分だった。
地図上に一つの交差点が浮かび上がった。
国道沿い。
大型物流倉庫へ向かうトラックが多い。
夕方の歩行者信号が長い。
雨の日は見通しが悪い。
古いパチンコ店の向かいに地域密着スーパー〈もんもんぐんぐん〉がある。
真壁はノートに書いた。
〈もんもんぐんぐん前交差点〉
その下に赤線を引いた。
〈転生確率九八・七%〉
数値は美しかった。
美しすぎる数値は疑うべきである。
真壁は知っていたが消さなかった。
真壁はその交差点を三日観測した。
一日目は晴れ。
二日目は曇り。
三日目は雨だった。
雨の日の午後六時台、大型トラックの通過数は平常時の一・四倍になった。
歩行者信号の待ち時間は長く、スーパーの買い物客は傘で視界を狭めていた。
〈もんもんぐんぐん〉の看板は雨に濡れて赤く光っていた。
真壁はノートを閉じた。
これ以上、机上の計算で得られるものはない。
彼は欄外に一行だけ書いた。
〈第一検証、実施〉
第一検証の結果、右腕にギプスが巻かれた。
病室の天井は白かった。
高本晶香医師がカルテを見ていた。
「幸い、命に別状はありませんよ」
真壁は天井を見た。
「角度が甘かったか」
高本医師はペンを止めた。
「何の話ですか」
「こちらの話です」
第二検証では肋骨を痛めた。
看護師がカーテンを開けて少しだけ目を丸くした。
「また真壁さんですか」
「偶然です」
「偶然も続くと、偶然とは呼ばなくなりますよ」
真壁は答えなかった。
第三検証のあと、職員室で元木が言った。
「真壁先生、本当に大丈夫ですか」
「少し運が悪かっただけです」
「運の問題ではない気がしますけどね」
「確率の問題です」
元木はそれ以上聞かなかった。
第四検証のあと、診断書は一枚増えた。
学校に提出した欠勤理由は交通事故。
真壁のノートでは検証失敗。
第五検証の欠勤明け、廊下で相沢陸が足を止めた。
「先生、もしかしてホントに異世界行くつもりですか」
真壁は松葉杖を持ち替えた。
「行くなら課題を出してからだ」
陸は笑わなかった。
第六検証の退院後、保険会社から電話が来た。
第七検証のあと、看護師が真壁の荷物を病室へ運んだ。
鞄の口から黒い方眼ノートが滑り落ちた。
高本医師はそれを拾った。
表紙には〈異世界転生発生条件に関する基礎研究〉と書かれていた。
彼女は何も言わず、ノートを真壁の枕元に置いた。
第八検証の前に、真壁は別ルートを検討した。
過労死。近年増加。二十代から三十代の社会人主人公との相性が高い。
しかし自分は仕事が早かった。
授業準備も採点も担任補助も予定より早く終わる。
つまり、再現性に欠ける。
刺殺および通り魔、これは制御不能。
病死、さすがに時間がかかりすぎる。
神の手違い、これも観測不能。
真壁はすべて棄却した。
第八検証のあと、真壁はノートに戻った。
問題はEだった。
物語において、涙、祈り、後悔、献身、誰かを守る衝動はしばしば門の開閉に関与する。
真壁はそこまで書いた。
そして線を引いた。
〈ただし、定量化不能。暫定的に一とする。〉
数字は揺るがなかった。
〈もんもんぐんぐん前交差点〉
〈転生確率九八・七%〉
第九検証の記録はほとんど残っていない。
雨が降っていた。
視界が悪かった。
〈もんもんぐんぐん〉の看板が赤かった。
それだけだった。
真壁は退院した夜、ノートの最後に一行だけ書いた。
〈第十検証、実施予定〉
第十検証の記録はノートには残らなかった。
その日は雨が降っていた。
真壁はそれだけを覚えていた。
次に目を開けた時、視界の上半分に病室の天井があった。
白い蛍光灯が一本だけ滲んで見えた。
左側で心電図の音がしていた。
真壁はゆっくり息を吸った。
今回も、ここは異世界ではなかった。
■第四章 因数が足りない■
高本晶香医師は黒い方眼ノートを膝に置いていた。
病室の窓の外は晴れ、雨は上がっていた。
真壁の左腕には点滴の管がつながれ、右足は白いシーツの下で固定されていた。
「読んだんですか」
真壁が言った。
高本医師はノートの表紙に指を置いた。
「表紙だけです」
「それで十分ですか」
「十分でした」
真壁は天井を見た。
白い蛍光灯は、今度は滲んでいなかった。
「何時間、意識を失っていましたか」
「十二時間ほどです」
「短いですね」
高本医師は答えなかった。
少し間を置き、高本医師が口を開いた。
「真壁さん」
「はい」
「あなたは、異世界転生できない体質です」
真壁はゆっくり高本医師を見た。
「医学的に、ですか」
「あなたの言葉を借りれば、物語的にです」
病室の空調が小さく鳴っていた。
「因数が足りないんです」
真壁は動かなかった。
高本医師はノートを開かず、続けた。
「真壁さんは、出口を探していたんじゃありません。出口を測っていたんです」
真壁の指がシーツの上で少し動いた。
「同じことでは」
「違います」
高本医師は静かに言った。
「異世界に行きたい人は、たぶん、どこかで現実に負けているんです。誰かに届かなかったり、見られなかったり、何かを取り返せなかったりしている」
真壁は黙っていた。
「でも真壁さんは、負けたことを証明しようとしていた。救われたいんじゃない。正しいと認めさせたい」
高本医師はノートを真壁の枕元に置いた。
「だから、門は開かなかったのだと思います」
「門があると?」
「さあ」
彼女は少しだけ笑った。
「私は医者ですから」
真壁はノートを見た。
〈E=測定不能。暫定的に一とする。〉
その一行が、頭の中に残っていた。
退院した夜、真壁は机に向かった。
ノートパソコンを開くと、投稿管理画面に読まれなかった作品が並んでいた。
量子観測。植民惑星。世代宇宙船。火星閉鎖都市。
どれも、PVは増えていなかった。
真壁は新規投稿の画面を開いた。
タイトル欄で一度だけ指が止まり、一呼吸おいて打ち込んだ。
〈因数が足りない〜数学の天才教師が異世界転生確率98.7%の黄金交差点を導き出した結果、なぜか十回連続で病院送りになる件について〜〉
本文欄には、研究記録ではなく小説を書いた。
真壁透という数学教師が、異世界転生に失敗し続ける話だった。
書き終えると投稿ボタンを押した。
ノートパソコンの横で、スマートフォンが震えた。
投稿サイトからの通知だった。
画面を見ると、最初の感想が付いていた。
〈当たってるわ(笑)〉
感想の投稿者名はパスティーだった。
真壁はその一文をしばらく見て、スマートフォンを伏せた。
ノートパソコンは開いたままだった。
椅子から立ち、部屋を出た。
誰もいない机の上で、PVの数字が一つ増えた。
数字は瞬く間に二桁を越え、百を越えた。
伏せられたスマートフォンが、何度も短く震えていた。
ノートパソコンの画面では、新しい通知が増え続けていた。




