第1話 魔法人妻⭐︎エミ子誕生!?
「キャー!」
「誰か助けて!」
町中からあがる煙と阿鼻叫喚。
逃げ行く人々の背を追いかけるように怪人が現れる。
「キキキ! ここは自然が少なくて気に食わん! ならばこのオレ様がこの町を破壊し尽くし、自然豊かな真緑に変えてやるのさ! おりゃりゃりゃりゃ!」
怪人が木の枝のような腕を振るうと木の葉が舞い散り、やがてそれは刃となり町を次々に破壊していく。
「待ちなさい!」
刹那、そんな場所に似つかわしくない可愛らしいどこかハスキーな声が響き渡る。
「ん? 貴様何者だ!」
怪人の視線の先には一人の少女……否、女性が立っていた。
生地をたっぷりと使った桃色のフリルスカートに可愛らしいリボン。
そして一際目を引く奇抜なヘアスタイル。
「私、魔法人妻コーラルが来たからにはもう好きにはさせないわ!」
「キキキ! ようやくお出ましか魔法人妻!」
怪人が再び腕を振るうと木の葉が舞う。
そして舞い散る木の葉は鋭い刃となり魔法人妻へと集中する。
「コーラルリフレクター!」
詠唱を唱えロッドを翳すと、魔法人妻の前に光る壁が出現し怪人の攻撃をいとも容易く受け止めた。
「な、何ィ!?」
「これで終わりよ!」
魔法人妻がロッドを振りかぶる。
「喰らえ! 魔法人妻アターック!」
「ギャァァァァ!」
怪人は魔法人妻のロッドに貫かれ、身体から紫色の液体が飛び散る。
「今日もキュートに解決!」
次の瞬間、貫かれた怪人は爆散し消滅したのだった。
「……はぁ、もうこの活動辞めたい……」
「それだけは駄目じゃぞい! そんなことになればこの町は再び怪人で溢れてしまうんじゃぞ!?」
「もう! 鈴木の野郎許さないんだから!」
そう私がこんな風になってしまったのはつい先月のことだった。
♡♡♡
それはまだ蒸し暑い日の昼のこと。
「ええ、皆さんに集まって頂いたのは他でもない、魔法人妻の最終決定についてです」
等間隔に並べられた長机の前に立ち説明をしているのは町内会の会長鈴木。
エアコンの付いていない蒸し暑い公民館の館内に開いた窓の向こうから蝉の鳴き声が響き渡る。
「では皆さん、このくじを右の席の前田さんから順に引いていってください」
そうこれから私たち「適合者」は魔法少女の代替えとしてこの場に呼ばれたのだった。
「あの……少し質問があるのですが……」
そう言って手を上げたのは小学校近くの団地に住まう花田の奥さんだった。
「私たち既に「適合者」としては相応しくない歳ですよね? それなのに何故私たちが集められたのです?」
そう聞くと鈴木は淡々と説明を始める。
「理由は様々ですが、一つは戦える少女、即ち十代の女性の召集が難しくなってきたと言ったところでしょうか」
すると鈴木は不意に机の下から魔法少女の必需品であるミラクルロッドを取り出す。
「ここ最近、魔法少女が怪人と戦うことについてミラクルファクトリーやこの町の役所にも苦情がきている様でしてね。そこで我々雲母町とミラクルファクトリーは話し合いました。どうこの町の被害を食い止めるべきかと——」
公民館内が静まり返る。
煩い程に求愛のサインを出す蝉の鳴き声が熱波と共に脳内に焼きついていく。
「そこで浮かんだ案が"適合者拡張計画"です」
「適合者拡張計画?」
「ええ、つまりは対象年齢の壁を引き上げるというものです」
その時、静かだった公民館内が騒がしくなる。
「どういうこと?」
「もうそれって魔法少女じゃないじゃない!」
「皆さん、静粛に」
そして鈴木は再び机の下に手を入れると正方形の白い箱を取り出した。
「そういうことですので皆様には今からこのくじ引きでこの町を守るヒロイン、即ち魔法人妻を決めていきます」
途端に溢れる抗議の声。
しかし鈴木の顔は何一つ変わらなかった。
「安心してください。ミラクルロッドに選ばれた者は今後どう足掻こうと必然的に戦うヒロインの運命からは逃れられなくなるそうですから——」
「何処が安心なのよ!」
その言葉に先程まで抗議していた花田の奥さんが口を紡いでしまった。
「私たちには守る家族も子供だっているんです……!」
「だからこそ、適合者の皆さんの今後のためにも手っ取り早く運命を炙り出してしまう方が先決でしょう?」
「……何よそれ」
そして鈴木の強引な決行により地獄のようなくじ引きが始まった。
はずれのくじを引いた奥様方は安心した様子で溜息を溢している。
残るはあと三人、伊藤エミ子、花田さやか、小林かなえ。
「花田さんお先にどうぞ」
そう言って後手に回ったのはシングルマザーの小林だった。
「で、では……」
くじの結果ははずれ。
「よ、良かった……」
その瞬間、花田は膝から崩れ落ちた。
「次はどちらが先に引きます?」
「もうこうなったら一緒に引きましょうか」
「はい……」
エミ子はくじの入った箱の中に手を入れた。
その時、エミ子の手に何かが張り付く。
「ん?」
エミ子は怖くなり思わず手を引き抜いた。
すると手の平に皆と同じ、くじの紙が握られていた。
「じゃあ次は私の番です」
小林がくじを引く。
「では二人とも開封してください」
そう言われエミ子は恐る恐る紙の端を捲った。
(はずれろはずれろはずれろはずれろ)
しかし目を開けると、そこには中くらいのクラシックフォントで『♡当たり♡』と記載されていた。
「う、嘘でしょーー!?」
こうして、伊藤 エミ子(三十六歳)は雲母町の戦闘ヒロイン、魔法人妻コーラルとして選ばれたのだった。
to be continued……




