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お菓子をくれなきゃ、主人公にしちゃうぞ! ~相棒は三角コーン、恋人候補は信号機!? 暴走魔法少女よ、俺の人生で遊ぶな!~

作者: LackRock
掲載日:2026/10/31

挿絵(By みてみん)


 野丸(のまる)之人(のひと)は、人生で一度も主役になったことがない。


 学芸会では木。集合写真では半分だけ写る人。会社の飲み会では、最後まで誰にも気づかれず帰れる男である。


 十月三十一日、そんな之人がコンビニから帰る途中だった。


「トリック・オア・トリー………」


 頭上で何かが光った。


「とおおぉぉぉーーーっっっ!!!☆彡」


 ドッッッカァァァン!!


 夜空に巨大なカボチャが出現し、大爆発。三色の煙と勇壮《ゆうそう》なファンファーレを背負い、光の渦の中で少女が三回転した。


「ハロウィンの魔法少女! パオ・パプキ・パンプノーラ、参上なのパっ☆彡」


 金髪の少女が着地する。背後でさらに三連続の爆発。路面がカボチャ型に陥没した。


「パオって呼んでねっ♪」


「なんなんだ、おまえは!? 道路直せよ!」


「はぁいっ♪」


 杖を振ると道路は元通りになった。代わりに街灯が三本、カボチャになった。


「突っ込みどころしかねぇ!?」


「えへへっ! ねえねえ、お菓子持ってるのパ?☆」


「……いや、持ってないけど」


「…………え?」


 少女の笑顔が消えた。ファンファーレが止まり、背中のお化け三匹が喪服《もふく》に着替え、悲しげな音楽を演奏し始めた。


「ふぉっ!?」


「そんな……パオ、今日のために三百六十五回も寝たのに……(´・ω・`)」


「普通に一年過ごしただけだろ、それ」


「もう無理……人類に希望なんてないのパ……(;ω;)」


「大袈裟《おおげさ》な。コンビニならそこに――」


「じゃ、貴方を主人公にしちゃおっと♪」


「立ち直るの早っ!!」


 パオはくるりと回り、満面の笑みで杖を突きつけた。


「お菓子をくれなきゃ、主人公にしちゃうぞ?☆彡」


「だからそれ何の脅迫――」


「貴方のお名前は?☆」


「野丸之人……って急になんだよ」


「のひと、ね。えへへっ、今日は絶対、忘れられない夜にしてあげるのパっ★」


「嫌な予感しかしねぇ!」


「それじゃあ、めくるめく物語へごあんなーい☆彡」


 ドッッッカァァァン!!


『第一部 選ばれし男、野丸之人』


「なんだこれ!? やめろ、章立てするな!」


「まずは主人公らしい、悲しい過去からいくのパっ★」


 見知らぬ老人が背後に現れ、之人の肩を抱いた。


「よくぞここまで生きたのう、之人……。おぬしは三年前、スーパーのポイントを期限切れで失った……!」


「だれだ!? 確かに失ったが!?」


「その額、三十三ポイント……!」


 通行人たちが一斉に泣き崩れた。


「三十三も……!」「なんて過酷な運命だ!」「ポイント三倍デーだったのに!」


「俺の人生、そこが一番悲しいのかよ!」


 老人は空を仰いだ。


「じゃが安心せい。今こそ、運命の仲間が現れる!」


 道路脇の赤い三角コーンに顔が生えた。


「よう、相棒。お前の背中は俺が守るぜ」


 やたらと渋くていい声だった。


「三年前、お前に蹴られた日からずっと――」


 之人はコーンを持ち上げ、道路脇へ戻した。


「なんで三角コーンが喋ってんだよ! 覚えてもない過去を語りやがって!」


 パオは両手を合わせ、目をきらきらさせていた。


「すっごい! 再会してすぐ抱き上げるなんて、運命なのパっ♡」


「片づけたんだよ!」


 之人は逃げた。


 ただの帰宅である。なのに踏み出した瞬間、足元に赤い絨毯《じゅうたん》が敷かれ、ブラスバンドが出現し、商店街の会長が剣を差し出してきた。


「勇者よ! この街を救ってくれ!」


「ちょっと、もう帰らせて!」


「うわあ、いきなり旅立ちイベント! パオ、天才かもっ(≧▽≦)☆」


 剣は三割引シールの貼られた長ネギだった。


 之人は会長の手へ押し返した。


「これで何と戦えっていうんですか」


「魔王っ★彡」


 パオが元気よく答えた途端、交差点が割れた。


 地中から巨大なカボチャがせり上がり、歩道脇の広場をふさいだ。


『よく来たな、選ばれし者よ。余こそが魔王――』


「ちょっと邪魔よ! ここ駐輪場なんですけど!」


 自転車を押していたおばちゃんが、魔王の前でベルを鳴らした。


『すみません』


 魔王は横へずれた。之人も頭を下げて、その脇を通った。


「次は運命の恋なのパっ! 主人公にはヒロインが必要だもん♡」


「まだキャラが増えるのか!? もう充分いるだろ、お前とか!」


「えっ、まさかパオが……?(*ノωノ)」


 パオは頬に手を当てた。


「やだぁ、急にそんな、照れちゃうっ♥」


「そういう意味じゃない!」


「じゃあ交代っ♪」


 信号機がピンク色に染まった。


『ずっとあなたを見ていました。青いときも、黄色いときも、赤いときも……』


「さんしょくぅ!」


『でも、あなたはいつも私を通り過ぎていく……』


「そういうもんだろうよ!」


 之人はきびすを返し、別の横断歩道へ向かった。


『その女、誰よ!』


「あっちも信号機だよ!」


 三角コーンが割って入った。


「待てよ。こいつの隣は俺の場所だ」


「交通安全設備で三角関係を作るな!」


「えへへっ! 三は馬鹿になる数字だって聞いたのパ☆彡」


「なんの話だよ!?」


「せっかくのハロウィンなんだもん。頭空っぽにして楽しもうよっ♪」


「メタいからやめてくれ! 伝わるかどうかもわからん!」


 歩道橋まで嫉妬《しっと》で揺れはじめたので、之人はパオの肩をつかんだ。


「これ、どうすれば終わるんだ!」


「主人公が大活躍して、みんな幸せになったらハッピーエンドだよ♪」


「だったら今すぐ幸せにしろ!」


「いいの!? みんなを!?☆」


「頼むから普通に帰らせてくれ!」


「はぁいっ! みんな、主人公になぁれーっ☆彡」


「俺の話を聞けえええ!」


 杖から光があふれた。


 おばちゃんの背後に『伝説の自転車乗り』の文字が浮かび、掟《おきて》破りの地元走りを披露する。商店街の会長は、行方不明だった双子の兄に再会し、涙した。三角コーンは世界を滅ぼす力に目覚め、泣きながら「俺は……ただのコーンでいたかった」と嘆いた。


 カボチャ魔王には上司が現れた。カボチャ大魔王だった。さらにその上に現れたのは経理のカボチャだった。


『経費申請に不備があります』


『この最終決戦、なんとか、なんとか稟議が通りませんか!?』


「経理に頭が上がらないのがリアル!」


 電柱が巨大ロボに変形し、商店街のアーケードが宇宙戦艦になった。之人は長ネギを握らされ、なぜか魔王と一緒に領収書を探していた。


 そこへ散歩中の犬が通りかかった。


「ワン!」


 パオが目を輝かせた。


「……王(ワン)? 王様なのパぁ! 戴冠式《たいかんしき》しなきゃっ★」


「待て待てこじつけが過ぎる! 鳴き声を王位継承の根拠にするな!」


 犬に黄金の王冠が載り、足元から玉座がせり上がった。町の人々がひざまずく。


「ワン!」


『陛下がお言葉を!』


「ワンワン!」


『減税だあああ!!』


「誰が通訳してんだよ!」


 パオは感激して泣き始めた。


「よかったねぇ、立派な王様になれて……! お祝いの花火、いっくよーっ☆彡」


 杖から飛び出した花火が夜空で爆ぜ、一発だけ市役所の屋根に突っ込んだ。


「見て見て之人! みんなキラキラしてるのパっ☆彡」


「キラキラじゃなくて燃えてんだよ! 市役所がぁ!」


「えっ……?」


 パオの笑顔が止まった。


 屋根から上がる炎を見つめ、それから之人を見上げる。


「……パオ、失敗しちゃった……?(´・ω・`)」


「まあ、だいぶ」


「之人、困ってる……?」


「国が困ってる」


 パオは杖をぎゅっと抱きしめた。先端のカボチャまでしょんぼりしている。


「パオ、ただ、之人にキラキラした日をあげたかっただけなのに……」


 背中のお化け三匹が葬送曲《そうそうきょく》を奏ではじめた。一匹が指揮者、一匹がオーボエ。残る一匹は線香を持っている。


「まだ誰も死んでないからな!?」


「ごめんね……。みんな、喜んでくれると思って……」


 大粒の涙が落ちた。


 之人は言葉につまった。とてつもなく迷惑だ。だが、目の前で本気で泣いている相手に、これ以上何を言えばいい。


「……分かった。まず落ち着いて、一緒に元へ戻そう」


「……うん」


「どうすれば戻せる?」


 パオは袖で涙を拭いた。


「全部、夢だったことにしちゃえばいいのパっ♪」


「おお、そういう手が――」


「夢オチ魔法っ☆彡」


「待て、早――」


 世界が暗転した。


 之人は布団の中で目を開けた。


「……夢?」


 よかった。ようやく終わった。


「おはよーっ! 夢の世界にようこそなのパっ♪」


 枕元のパオが、両手を広げた。


「夢から覚めたんじゃないのかよ!」


「えへへ、夢オチにしたら、夢の中から出られなくなっちゃったのパ……(´・ω・`)」


 窓の外を三角コーンが泳いでいた。カボチャ大魔王は会議中で、犬の王様は月をかじっている。


 パオが床にぺたんと座った。


「そんなぁ……! 今度こそおしまいだぁ……! パオは一生、之人の布団の中で飼われる女になるんだぁ……!(´;ω;`)」


 空から『完』の文字が落ちてきた。


「言い方! どうすれば夢から抜け出せる!?」


「……あっ! 之人が最後を決めればいいのパっ☆」


「そんなんでいいのか?」


「だって、之人が主人公だもん! 大活躍して、ハッピーエンドに――」


「活躍はもういい!」


 之人は落ちてきた『完』を押しのけ、布団から出た。


 特別な力も宿命も、三十三ポイントの悲劇もいらない。だが、パオに任せれば、帰宅するだけで銀河の一つも救わされそうだ。


「……お前と、普通にお菓子を食べたい。それで終わりだ」


 パオがぱちぱちと瞬きをした。頬を赤くして、口元を押さえる。


「それって……♡」


「いや、変な意味じゃ――」


「お菓子!! あるのパっ!?!?」


「そこかよ!」


 ポケットを探ると、レシートに紛れて小さな飴が出てきた。会計のときにもらった試供品だ。もっと早く思い出せば、市役所は燃えずに済んだ。


「これでもいいか」


「うんっ! ありがと、之人っ♪」


 パオは両手で飴を受け取り、宝石でももらったように顔を輝かせた。


 包みを開くと、飴を自分の口に入れた。


「ん、之人はお菓子食べないのパ?♪」


「それしかない」


「ねっ、半分ずつにしよ?♡」


「お前が食ってるじゃねえか」


 袖を、くいっと引かれる。


 パオが背伸びをして、之人の顔をのぞき込んだ。とびきりの名案を思いついたように、瞳を輝かせている。


「く・ち・う・つ・し♡」


「くち――っ!?」


 声が裏返った。


「待て! 半分って、そういう分け方!?」


 パオはこくんと頷き、之人の肩に手を添えた。


「ね、ちょっとかがんで?♥」


「いや、近い! 顔が!」


「近くないと渡せないよ?♡」


 それはそうだが。


 納得してどうする。


 目のやり場に困っていると、パオの笑顔が少しだけ曇った。


「……パオとじゃ、いや……?」


「嫌とは言ってないだろ!」


「よかったっ♡」


 ほっとしたように笑われて、言葉が続かなくなった。


 肩に添えられた手が、首の後ろへ回る。之人は思わず身をかがめ、近づきすぎた顔に気づいて固まった。


 金色の髪が頬をくすぐった。パオはもう笑わずに、まっすぐこちらを見ていた。


「……之人も、目、閉じて……?」


 さっきまであれほど騒がしかった世界で、自分の鼓動ばかりが聞こえる。


 彼女のまつげが伏せられた。


 之人の視線が、その唇に落ちる。


 どうしよう。


 本当に、閉じたら――。


 もう無理だ。これ以上は、心臓がもたない。


「お、終わりだっ!」


 之人は布団を跳ねのけた。


 見慣れた天井。カーテンの隙間から差し込む街灯の明かり。


「……夢、か」


 口元に触れかけた手を止め、そろそろと下ろす。


「……何を確かめようとしてんだ、俺」


「ねえねえっ♪」


「うわあああっ!?」


 枕元にパオがいた。


「な、なんでいるんだよ!? 夢は終わっただろ!?」


「うんっ! 之人が終わりって決めたから、夢から覚めたのパっ♪」


「じゃあなんでお前までいるんだよ!?」


「えへへっ、一緒に出てきちゃった♡」


「一緒にって、お前……!」


 目が合った途端、さっきの唇を思い出した。


 之人は真っ赤になって顔をそむける。


「ねえ、之人……♡」


 袖を、くいっと引かれた。


「続き、する……?♡」


「つ、続き!? さっきのアレを!?」


 パオがこくりと頷いた。


「第二部なのパっ☆彡」


『第二部 野丸之人、銀河を救う』


 窓の外で夜空が割れ、三百三十三万隻のカボチャ型宇宙戦艦が現れた。


「そっちかよおおおお!!」


「だって、お菓子くれたもん! パオ、すっごく元気になっちゃったのパっ(≧▽≦)☆彡」


 先頭の艦で、三角コーンが敬礼した。


『第三部の確定申告も、お楽しみに!』


 こうして野丸之人の日常には、三百三十三万隻の宇宙戦艦と、世界を滅ぼす三角コーンと、やたら元気な魔法少女がついてくる。


 銀河の平和を守るため、之人の新たな戦いが今、始まる――!


「俺の日常、どこ行ったああああ!!」


― 了 ―

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「三角コーンがかっこよかった」

「パオがかわいかった」

「市役所はもう少しいたわってあげて」


など、少しでも楽しんでいただけましたら、

下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、とても励みになります。


「お菓子をくれなきゃ……

 ☆をくれなきゃ、続きを書いちゃうぞ?☆彡」 ――パオ


ハッピーハロウィン!

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