お菓子をくれなきゃ、主人公にしちゃうぞ! ~相棒は三角コーン、恋人候補は信号機!? 暴走魔法少女よ、俺の人生で遊ぶな!~
野丸之人は、人生で一度も主役になったことがない。
学芸会では木。集合写真では半分だけ写る人。会社の飲み会では、最後まで誰にも気づかれず帰れる男である。
十月三十一日、そんな之人がコンビニから帰る途中だった。
「トリック・オア・トリー………」
頭上で何かが光った。
「とおおぉぉぉーーーっっっ!!!☆彡」
ドッッッカァァァン!!
夜空に巨大なカボチャが出現し、大爆発。三色の煙と勇壮なファンファーレを背負い、光の渦の中で少女が三回転した。
「ハロウィンの魔法少女! パオ・パプキ・パンプノーラ、参上なのパっ☆彡」
金髪の少女が着地する。背後でさらに三連続の爆発。路面がカボチャ型に陥没した。
「パオって呼んでねっ♪」
「なんなんだ、おまえは!? 道路直せよ!」
「はぁいっ♪」
杖を振ると道路は元通りになった。代わりに街灯が三本、カボチャになった。
「突っ込みどころしかねぇ!?」
「えへへっ! ねえねえ、お菓子持ってるのパ?☆」
「……いや、持ってないけど」
「…………え?」
少女の笑顔が消えた。ファンファーレが止まり、背中のお化け三匹が喪服に着替え、悲しげな音楽を演奏し始めた。
「ふぉっ!?」
「そんな……パオ、今日のために三百六十五回も寝たのに……(´・ω・`)」
「普通に一年過ごしただけだろ、それ」
「もう無理……人類に希望なんてないのパ……(;ω;)」
「大袈裟な。コンビニならそこに――」
「じゃ、貴方を主人公にしちゃおっと♪」
「立ち直るの早っ!!」
パオはくるりと回り、満面の笑みで杖を突きつけた。
「お菓子をくれなきゃ、主人公にしちゃうぞ?☆彡」
「だからそれ何の脅迫――」
「貴方のお名前は?☆」
「野丸之人……って急になんだよ」
「のひと、ね。えへへっ、今日は絶対、忘れられない夜にしてあげるのパっ★」
「嫌な予感しかしねぇ!」
「それじゃあ、めくるめく物語へごあんなーい☆彡」
ドッッッカァァァン!!
『第一部 選ばれし男、野丸之人』
「なんだこれ!? やめろ、章立てするな!」
「まずは主人公らしい、悲しい過去からいくのパっ★」
見知らぬ老人が背後に現れ、之人の肩を抱いた。
「よくぞここまで生きたのう、之人……。おぬしは三年前、スーパーのポイントを期限切れで失った……!」
「だれだ!? 確かに失ったが!?」
「その額、三十三ポイント……!」
通行人たちが一斉に泣き崩れた。
「三十三も……!」「なんて過酷な運命だ!」「ポイント三倍デーだったのに!」
「俺の人生、そこが一番悲しいのかよ!」
老人は空を仰いだ。
「じゃが安心せい。今こそ、運命の仲間が現れる!」
道路脇の赤い三角コーンに顔が生えた。
「よう、相棒。お前の背中は俺が守るぜ」
やたらと渋くていい声だった。
「三年前、お前に蹴られた日からずっと――」
之人はコーンを持ち上げ、道路脇へ戻した。
「なんで三角コーンが喋ってんだよ! 覚えてもない過去を語りやがって!」
パオは両手を合わせ、目をきらきらさせていた。
「すっごい! 再会してすぐ抱き上げるなんて、運命なのパっ♡」
「片づけたんだよ!」
之人は逃げた。
ただの帰宅である。なのに踏み出した瞬間、足元に赤い絨毯が敷かれ、ブラスバンドが出現し、商店街の会長が剣を差し出してきた。
「勇者よ! この街を救ってくれ!」
「ちょっと、もう帰らせて!」
「うわあ、いきなり旅立ちイベント! パオ、天才かもっ(≧▽≦)☆」
剣は三割引シールの貼られた長ネギだった。
之人は会長の手へ押し返した。
「これで何と戦えっていうんですか」
「魔王っ★彡」
パオが元気よく答えた途端、交差点が割れた。
地中から巨大なカボチャがせり上がり、歩道脇の広場をふさいだ。
『よく来たな、選ばれし者よ。余こそが魔王――』
「ちょっと邪魔よ! ここ駐輪場なんですけど!」
自転車を押していたおばちゃんが、魔王の前でベルを鳴らした。
『すみません』
魔王は横へずれた。之人も頭を下げて、その脇を通った。
「次は運命の恋なのパっ! 主人公にはヒロインが必要だもん♡」
「まだキャラが増えるのか!? もう充分いるだろ、お前とか!」
「えっ、まさかパオが……?(*ノωノ)」
パオは頬に手を当てた。
「やだぁ、急にそんな、照れちゃうっ♥」
「そういう意味じゃない!」
「じゃあ交代っ♪」
信号機がピンク色に染まった。
『ずっとあなたを見ていました。青いときも、黄色いときも、赤いときも……』
「さんしょくぅ!」
『でも、あなたはいつも私を通り過ぎていく……』
「そういうもんだろうよ!」
之人はきびすを返し、別の横断歩道へ向かった。
『その女、誰よ!』
「あっちも信号機だよ!」
三角コーンが割って入った。
「待てよ。こいつの隣は俺の場所だ」
「交通安全設備で三角関係を作るな!」
「えへへっ! 三は馬鹿になる数字だって聞いたのパ☆彡」
「なんの話だよ!?」
「せっかくのハロウィンなんだもん。頭空っぽにして楽しもうよっ♪」
「メタいからやめてくれ! 伝わるかどうかもわからん!」
歩道橋まで嫉妬で揺れはじめたので、之人はパオの肩をつかんだ。
「これ、どうすれば終わるんだ!」
「主人公が大活躍して、みんな幸せになったらハッピーエンドだよ♪」
「だったら今すぐ幸せにしろ!」
「いいの!? みんなを!?☆」
「頼むから普通に帰らせてくれ!」
「はぁいっ! みんな、主人公になぁれーっ☆彡」
「俺の話を聞けえええ!」
杖から光があふれた。
おばちゃんの背後に『伝説の自転車乗り』の文字が浮かび、掟破りの地元走りを披露する。商店街の会長は、行方不明だった双子の兄に再会し、涙した。三角コーンは世界を滅ぼす力に目覚め、泣きながら「俺は……ただのコーンでいたかった」と嘆いた。
カボチャ魔王には上司が現れた。カボチャ大魔王だった。さらにその上に現れたのは経理のカボチャだった。
『経費申請に不備があります』
『この最終決戦、なんとか、なんとか稟議が通りませんか!?』
「経理に頭が上がらないのがリアル!」
電柱が巨大ロボに変形し、商店街のアーケードが宇宙戦艦になった。之人は長ネギを握らされ、なぜか魔王と一緒に領収書を探していた。
そこへ散歩中の犬が通りかかった。
「ワン!」
パオが目を輝かせた。
「……王? 王様なのパぁ! 戴冠式しなきゃっ★」
「待て待てこじつけが過ぎる! 鳴き声を王位継承の根拠にするな!」
犬に黄金の王冠が載り、足元から玉座がせり上がった。町の人々がひざまずく。
「ワン!」
『陛下がお言葉を!』
「ワンワン!」
『減税だあああ!!』
「誰が通訳してんだよ!」
パオは感激して泣き始めた。
「よかったねぇ、立派な王様になれて……! お祝いの花火、いっくよーっ☆彡」
杖から飛び出した花火が夜空で爆ぜ、一発だけ市役所の屋根に突っ込んだ。
「見て見て之人! みんなキラキラしてるのパっ☆彡」
「キラキラじゃなくて燃えてんだよ! 市役所がぁ!」
「えっ……?」
パオの笑顔が止まった。
屋根から上がる炎を見つめ、それから之人を見上げる。
「……パオ、失敗しちゃった……?(´・ω・`)」
「まあ、だいぶ」
「之人、困ってる……?」
「国が困ってる」
パオは杖をぎゅっと抱きしめた。先端のカボチャまでしょんぼりしている。
「パオ、ただ、之人にキラキラした日をあげたかっただけなのに……」
背中のお化け三匹が葬送曲を奏ではじめた。一匹が指揮者、一匹がオーボエ。残る一匹は線香を持っている。
「まだ誰も死んでないからな!?」
「ごめんね……。みんな、喜んでくれると思って……」
大粒の涙が落ちた。
之人は言葉につまった。とてつもなく迷惑だ。だが、目の前で本気で泣いている相手に、これ以上何を言えばいい。
「……分かった。まず落ち着いて、一緒に元へ戻そう」
「……うん」
「どうすれば戻せる?」
パオは袖で涙を拭いた。
「全部、夢だったことにしちゃえばいいのパっ♪」
「おお、そういう手が――」
「夢オチ魔法っ☆彡」
「待て、早――」
世界が暗転した。
之人は布団の中で目を開けた。
「……夢?」
よかった。ようやく終わった。
「おはよーっ! 夢の世界にようこそなのパっ♪」
枕元のパオが、両手を広げた。
「夢から覚めたんじゃないのかよ!」
「えへへ、夢オチにしたら、夢の中から出られなくなっちゃったのパ……(´・ω・`)」
窓の外を三角コーンが泳いでいた。カボチャ大魔王は会議中で、犬の王様は月をかじっている。
パオが床にぺたんと座った。
「そんなぁ……! 今度こそおしまいだぁ……! パオは一生、之人の布団の中で飼われる女になるんだぁ……!(´;ω;`)」
空から『完』の文字が落ちてきた。
「言い方! どうすれば夢から抜け出せる!?」
「……あっ! 之人が最後を決めればいいのパっ☆」
「そんなんでいいのか?」
「だって、之人が主人公だもん! 大活躍して、ハッピーエンドに――」
「活躍はもういい!」
之人は落ちてきた『完』を押しのけ、布団から出た。
特別な力も宿命も、三十三ポイントの悲劇もいらない。だが、パオに任せれば、帰宅するだけで銀河の一つも救わされそうだ。
「……お前と、普通にお菓子を食べたい。それで終わりだ」
パオがぱちぱちと瞬きをした。頬を赤くして、口元を押さえる。
「それって……♡」
「いや、変な意味じゃ――」
「お菓子!! あるのパっ!?!?」
「そこかよ!」
ポケットを探ると、レシートに紛れて小さな飴が出てきた。会計のときにもらった試供品だ。もっと早く思い出せば、市役所は燃えずに済んだ。
「これでもいいか」
「うんっ! ありがと、之人っ♪」
パオは両手で飴を受け取り、宝石でももらったように顔を輝かせた。
包みを開くと、飴を自分の口に入れた。
「ん、之人はお菓子食べないのパ?♪」
「それしかない」
「ねっ、半分ずつにしよ?♡」
「お前が食ってるじゃねえか」
袖を、くいっと引かれる。
パオが背伸びをして、之人の顔をのぞき込んだ。とびきりの名案を思いついたように、瞳を輝かせている。
「く・ち・う・つ・し♡」
「くち――っ!?」
声が裏返った。
「待て! 半分って、そういう分け方!?」
パオはこくんと頷き、之人の肩に手を添えた。
「ね、ちょっとかがんで?♥」
「いや、近い! 顔が!」
「近くないと渡せないよ?♡」
それはそうだが。
納得してどうする。
目のやり場に困っていると、パオの笑顔が少しだけ曇った。
「……パオとじゃ、いや……?」
「嫌とは言ってないだろ!」
「よかったっ♡」
ほっとしたように笑われて、言葉が続かなくなった。
肩に添えられた手が、首の後ろへ回る。之人は思わず身をかがめ、近づきすぎた顔に気づいて固まった。
金色の髪が頬をくすぐった。パオはもう笑わずに、まっすぐこちらを見ていた。
「……之人も、目、閉じて……?」
さっきまであれほど騒がしかった世界で、自分の鼓動ばかりが聞こえる。
彼女のまつげが伏せられた。
之人の視線が、その唇に落ちる。
どうしよう。
本当に、閉じたら――。
もう無理だ。これ以上は、心臓がもたない。
「お、終わりだっ!」
之人は布団を跳ねのけた。
見慣れた天井。カーテンの隙間から差し込む街灯の明かり。
「……夢、か」
口元に触れかけた手を止め、そろそろと下ろす。
「……何を確かめようとしてんだ、俺」
「ねえねえっ♪」
「うわあああっ!?」
枕元にパオがいた。
「な、なんでいるんだよ!? 夢は終わっただろ!?」
「うんっ! 之人が終わりって決めたから、夢から覚めたのパっ♪」
「じゃあなんでお前までいるんだよ!?」
「えへへっ、一緒に出てきちゃった♡」
「一緒にって、お前……!」
目が合った途端、さっきの唇を思い出した。
之人は真っ赤になって顔をそむける。
「ねえ、之人……♡」
袖を、くいっと引かれた。
「続き、する……?♡」
「つ、続き!? さっきのアレを!?」
パオがこくりと頷いた。
「第二部なのパっ☆彡」
『第二部 野丸之人、銀河を救う』
窓の外で夜空が割れ、三百三十三万隻のカボチャ型宇宙戦艦が現れた。
「そっちかよおおおお!!」
「だって、お菓子くれたもん! パオ、すっごく元気になっちゃったのパっ(≧▽≦)☆彡」
先頭の艦で、三角コーンが敬礼した。
『第三部の確定申告も、お楽しみに!』
こうして野丸之人の日常には、三百三十三万隻の宇宙戦艦と、世界を滅ぼす三角コーンと、やたら元気な魔法少女がついてくる。
銀河の平和を守るため、之人の新たな戦いが今、始まる――!
「俺の日常、どこ行ったああああ!!」
― 了 ―
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
「三角コーンがかっこよかった」
「パオがかわいかった」
「市役所はもう少しいたわってあげて」
など、少しでも楽しんでいただけましたら、
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「お菓子をくれなきゃ……
☆をくれなきゃ、続きを書いちゃうぞ?☆彡」 ――パオ
ハッピーハロウィン!




