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異世界ポイ活、始めました〜私だけ「ポイント」が貯まるようなので、毎日お得に生きていこうと思います〜

作者: よつ葉あき
掲載日:2026/08/28

好評につき、連載版も開始しました!

『異世界ポイ活、始めました〜私だけ「ポイント」が貯まるようなので、毎日お得に生きていこうと思います〜』

連載版は作者ページの作品一覧からお読みいただけます。

よろしくお願いします


 コンコンッ!


「ナディア院長、大きな音がしましたが大丈夫ですか?」 

 

 そんな声にはっと目を開けると、梁が露出した天井が見えた。


「……これは、いったい……?」


 頭がずきりと痛む。


「いたたたた……」


 私はどうにか体を起こすと、また扉の向こうから遠慮がちな声が聞こえた。


「ナディア院長、大丈夫ですか? ドアを開けてもよろしいでしょうか?」

「ご、ごめん。今はちょっと一人にしてくれる?」

「……はい、では失礼いたします」


 足音が遠ざかって行った。 

 私はつい先ほど、床に落ちていた紙を踏み、足を滑らせた。

 床に頭を打ち付けたその瞬間、ナディアとして生きてきた記憶に重なるように、もうひとりの人生が蘇っていた。


 ここは、日本ではない。

 見知らぬ国どころか、魔法やスキルが存在する、まったく別の世界だ。


 今の私は、孤児院の院長を務める二十三歳の女性――ナディア。


 そして、もう一つ。

 日本で志摩子(しまこ)として暮らしていた頃の記憶も、突然蘇ってしまったのだ。

  

「これって、ラノベとかで流行りの異世界転生……え、私って転生者だったの!?」


 しかも、思い返せばナディアは貴族令嬢で、婚約破棄までされている。

 

「まさか……悪役令嬢もの?」

 

 思わず頭を抱えた。

 日本での私——志摩子は五十代半ばの主婦だった。


「トラックに轢かれたら異世界に転生したり、突然知らない世界に飛ばされたり……ふふっ、面白いことを考えるものね」


 なんて、所詮物語のできごと。

 そう思っていたのに、それが自分の身に起きるなんて――。

 漫画や小説の設定だからこそ面白いのであって、いざ自分が当事者になってみると、正直なところ困惑しかない。


「はぁ……」


 まずは今の自分について整理した方がよさそうだ。

 ナディアは貴族の令嬢として生まれ、それなりに恵まれた暮らしを送っていた。

 この世界では十五歳になると、貴族や平民を問わず【成人の儀】を受ける。


 そこで神から授けられた【天職】と、使用できる【スキル】を調べるのだ。

 そして、その結果によってナディアの人生は一変した。


 私に与えられた【天職】。

 それは――【主婦】だった。

 

 だが、【主婦】という天職そのものが大きな問題だったわけではない。

 問題は、授かったスキルにあった。


 私のスキル。

 それは――。


 【ポイ活】だったのだ。


「【ポイ活】って、あのポイ活よね?」


 私は「ステータス」と呟き、ステータス画面を呼び出した。

 すると、目の前に半透明の画面が現れる。

 そのスキル欄に浮かぶ【ポイ活】の文字を、じっと見つめた。


 日本での記憶を取り戻す前の私は、この言葉の意味が分からず、ずっと苦しんできた。


 【成人の儀】を執り行った司祭も、その言葉を知らなかった。

 けれど、今の私には分かる。


 ポイ活。

 買い物をしてポイントを貯めたり、貯まったポイントで買い物をしたり。

 私も日本にいた頃は、随分お世話になっていた。

 

「……」


 意味は分かった。

 分かったけれど――。


「この世界で、どうやってポイントなんて貯めるの……?」


 そもそも、この世界にはポイントカードも、スマートフォンも、通販サイトもない。

 貯めたポイントで買い物をするどころか、何をすればポイントが貯まるのかすら分からなかった。


「せめて、説明書くらいないのかしら……」


 私は小さく呟きながら、何気なくステータス画面の【ポイ活】の文字に指を置いた。

 そのまま、指を止めていると——。


「えっ!?」


 ステータス画面の上に、新たな画面が浮かび上がる。


『【ポイ活】の利用者登録を開始しますか?』


「……へ? 利用者……登録?」


 私の間抜けた声が、部屋に響いた。

 ステータス画面の上に浮かび上がった文字を、私は何度も読み返した。

 その下には、二つのボタンが表示されている。


『はい』

『いいえ』


「これって……」


 利用者登録。


 その言葉には、ものすごく聞き覚えがある。

 日本にいた頃、スマートフォンに新しいアプリを入れるたび、何度も目にしてきたものだ。

 ということは――。


「これ、もしかしてアプリみたいなものなの?」


 まさか異世界に来て、利用者登録をすることになるとは思わなかった。

 けれど、断る理由なんてない。

 【ポイ活】の意味が分からなかったナディアは、スキルを使えず、ずっと苦しんできたのだ。


「もちろん、『はい』よ!」


 私は迷わず『はい』を押した。


 すると――。


 テッテレー♪


 場違いなほど軽快な音が鳴り響く。


『利用者登録が完了しました!』

 

『ナディアさん、登録ありがとう!』

  

『登録ボーナスとして100Pをプレゼントします!』


「……え?」


 私は目を見開いた。


「ひゃ、100ポイント!?」


 ポイント。


 今、確かにポイントと表示された。

 しかも――もらえた!


 意味すら分からなかった【ポイ活】というスキル。

 それが、日本での記憶を取り戻した途端、本当にポイントをくれたのだ。


「【成人の儀】から八年間、何をやっても分からなかったのに……」


 嬉しい。

 ものすごく嬉しい。

 ……けれど。


「この100ポイント、何に使えるんだろう?」


 肝心なことが、何ひとつ分からない。

 そもそも、今のは登録ボーナスでもらっただけだ。

 これからどうやってポイントを貯めるのか。

 そして、貯めたポイントで何ができるのか。


 私は新たに現れた「次へ」のボタンを押した。

 

 そこに表示されていたものを見た瞬間、私は大きく目を見開いた。


「これ……!」


 忘れるはずがない。

 志摩子だった頃、毎日のように利用していたポイ活アプリ。


『ポイントを貯めよう』


 略して――『ポイ貯め』。


 画面の上部には、現在の保有ポイントが大きく表示されている。


『100P』


「本当に入ってる……!」


 先ほどもらった登録ボーナスだ。

 そして、その下には、見覚えのある項目がいくつも並んでいた。


 懐かしい。

 間違いない。


「【ポイ活】の使い方、わかったーー!」


 八年間、誰にも使い方が分からなかった謎のスキル【ポイ活】。


 その正体は、どうやら私が日本で使っていた『ポイ貯め』と深く関係しているらしい。


 私は画面に表示された「100P」を見つめながら、思わず口元を緩めた。


「これなら……この世界でもポイ活できるかもしれない!」


 そしてその画面の中に『ポイント交換』という項目を見つけた。

 期待を胸に、そこをタップすると——


『現在のナディアさんが交換できるのは、こちらの商品!』


 その下には、さらに文字が続いている。


『この中から選んでね!』


 どきどきしながら、『OK』を押した。


『たわし/10P』


「……」


(うん、ろくなもんと交換できない!)


 なんて考えているときだった。


 ピロン!

 軽快な音とともに画面が切り替わる。


『はじめてのポイント交換だね!』


 うん、いらない。


 だが拒否権はないらしく、表示を消すバツのボタンなどは見当たらなかった。


『どれか一つを選んでみよう』


 “どれか”って一つしかないじゃない!?


 なんてヤケクソのような気持ちで

『たわし』のボタンを、ぽちっと押した。

 すると――。


「え?」


 目の前のテーブルへ、どこからともなく光の粒が集まり始めた。


「な、なに!?」


 慌てて身を引く。

 光の粒はテーブルの上でひとつの塊となり、ピカッと強く輝いた。

 眩しさに目を細めた、その次の瞬間。


「…………え?」


 テーブルの上に、たわしがあった。

 茶色くて、とげとげしていて、持ち手が付いたたわし。


「…………」


 私は画面を見る。

 そして、テーブルを見る。

 手に取ってみた。

 

「さて……これ、どうしましょう?」


 目の前にあるのは——たわし。

 私は、たわしの柄を持ち途方に暮れた。


 ◇◆◇


 孤児院内を歩いていると、庭の方から子どもたちの声が聞こえた。

 とっさに身を隠す。


 (……子どもたちがナディア(わたし)の姿を見たら怯えられちゃうもの)

  

 貴族令嬢として育ったナディアは、孤児院長という立場を「平民のする仕事」と見下し、強い不満を抱えていた。

 そして、その不満を——子どもたちにぶつけてしまっていたのだ。

 いつも子どもを怒鳴りちらし、子どもが掃除などを完璧にできなければ、食事抜きは当たり前だった。

 ……我ながら、ひどい。

 思い出しているだけで悲しくなってくる。


「ロイ、まだ終わんねえのかよ」


 そんな声に、何をしているか覗いてみると


 (あー……あれは、大変そうだわ)

 

 ロイと呼ばれた男の子が、たくさんの靴を洗っていた。

 だがそのやり方は、布で靴を擦っているため、なかなか汚れを落とせていない。

 

 靴を洗うのって、大変よね。

 私も子どもたちの上履きを毎週末洗うの苦労してたわー。


「あ」


 私はポケットを探る。出てきたのは——


「てってれー」


 たわしっ!


 わざわざ効果音も付けてみたが、やっぱりただのたわしだ。 


「もー! 全然、落ちないよぉ」


 文句を漏らし、顔を上げたロイと目が合った。


「あ……」


 明らかに怯える、ロイ。

 ……やはり仲良くなるのはなかなか難しそうだ。


 さっさと要件を伝え、立ち去ってあげよう。


「いつまで、洗ってるの?」


 必死にナディアを演じる。

 

「ご、ごめんなさい……全然、汚れが落ちなくて……」

「これを使いなさい」


 意識して投げるように渡した、たわし。

 受け取ったロイは、不思議そうにそれを眺める。


「なにこれ?」

「たわしよ。これを使って洗ってみなさい」

「た、たわし……?」


 戸惑うロイ。

 でも私に見つめられ、たわしを水に浸けたあと、半信半疑で靴をこする。


「えっ!」


 ロイは目を見開き、声を上げた。


「あんなに落ちなかったのに!」


「すごい、すごい!」と感動の声を上げながら、靴を磨いていく。

 その声に釣られるように、私を気にしつつも他の子どもたちも寄ってきた。


「なんだこれ」

「貸して。オレも使いたい!」


 あっという間に、たわしは取り合いになった。

 すごい……私が「いらなーい」なんて思ったたわしが、大人気だ。


「すごいぞ、コレ! この棒を持って使うと洗いやすい!」

「靴の中まで、ちゃんと洗える!」

「いくら擦ってもとれなかった汚れが、簡単に落ちるぞ」


(よかった。たわし、役に立ったみたい)


 そんなことを思いながら彼らを眺める。

 するとひとりの子どもが、驚いてこちらを見ていることに気づき、「コホンっ!」とわざとらしく咳をして、顔を引き締める。


「じゃ、ちゃんと綺麗にしなさい」


 ぷいっと顔を背け、その場を後にしようとしたとき、背後から声が聞こえた。


「……院長、笑ってた?」

「え、院長が? そんな訳ないだろ!」


 ……やっぱりナディアは、笑顔なんてみせないのか。

 急に変わって変に思われぬよう、気をつけねば!!


 ◇◆◇


 しばらくして、子どもたちがいなくなったあと私は庭に戻ってきた。

 そこにはずらりと並んだ、たくさんの靴。

 泥汚れなどは、すっきり綺麗に落ちていた。


 そして、その端に吊るされた——たわし。


 私は思わず微笑みながら、たわしに「お疲れ様」と話しかけた。


 その時——


「あら?」


 その声に振り向くと、上品そうな中年の女性が立っていた。

 女性の目線の先には——たわし。


「あらあらあらあら」


 そう言ってたわしに近づいてくる。

 

 (な、なんなのこの人!)

 

 でも姿勢がよく、無駄のない動き。

 服も上質で、ただの平民とは思えない。


 女性は、じーっとたわしを観察したあと、私へ振り向き嬉しそうに聞いてきた。

 

「これって、“たわし”よね!?」

「!?」


 まさか“たわし”を知ってる人がいるなんて!


 驚いていると、また新たな人物が現れた。


「何をなさっているのですか? 急に居なくなるので驚きましたよ!」

「あら、ごめんなさいね」


 私はさらに驚くことになった。


 (何! この美人さんは!?)


 その女性を追って現れたのは、金髪の女性だった。

 ナディアもかなり整った顔だと思っていたが、比べ物にならないほどの美女だ。


「ちょっと懐かしいものを見つけたものだから……」

「ダメです。もう時間がありません、行きますよティアナ様!」

「えー!」


 美人さんは、がしっとティアナ様を捕まえる。


「お騒がせいたしました」


 私に丁寧に礼をする。

 思わず、

 

「いえいえ、こちらこそお構いも出来ず……」


 とお辞儀をし返した。

 そうして、嵐のように去っていった女性たち。


「……何だったのかしら?」


 まあ、いいか。

 私は改めて、綺麗に洗われた靴と端に吊るされたたわしを見つめた。

 

 たった10ポイント。

 最初は「ろくなものじゃない」なんて思ったけれど、子どもたちの仕事を少し楽にすることはできた。

 

 なら、もっとポイントを貯めれば――。

 食べ物だって。

 日用品だって。

 この孤児院に足りないものを、少しずつ揃えられるかもしれない。

 

「……ふふっ」

 

 なんだか、楽しくなってきた。

 

「よーし。異世界でも、ポイ活頑張りますか!」

 

 私はそう言って、孤児院のドアを開けた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「続きも読んでみたい!」と思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


たくさんの方に楽しんでいただけましたら、連載版として続きを投稿したいと思っています!


8/31追記

好評につき、連載版も開始しました!

『異世界ポイ活、始めました〜私だけ「ポイント」が貯まるようなので、毎日お得に生きていこうと思います〜』

連載版は作者ページの作品一覧からお読みいただけます。

よろしくお願いします

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挿絵(By みてみん)
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― 新着の感想 ―
強烈な、たわし推し。 ᕦ(ò_óˇ)ᕤ う〜ん、ポイ活ってめんどうだし、すぐサボってしまうんですよね……。 (・–・;)ゞ
テッテレー♪
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