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氷中航路の整備士令嬢は、夜の公爵と朝を待つ

作者:乾為天女
最新エピソード掲載日:2026/09/09
王立技術学院の魔導設備整備主任クイリーは、毎夜十一時四十七分に停止する学院の暖房機関を調べていた。故障箇所は見つからない。代わりに校舎裏の古井戸から現れたのは、氷色の不思議な生物ミルと、欠けた古いスープボウルだった。陶器片を配管へ触れさせると、止まっていた機関が一瞬だけ動き出す。

調査に加わった北方公爵ジオンニは、十年前の大事故で封鎖された「氷中航路」の監察官。冷静で礼節を忘れない彼には、夜になるたび地下の痛みを自分の身体で受け取る秘密があった。クイリーが測定すると、その苦痛は学院地下の異常波形と完全に一致していた。

やがて二人は、七客一組のヴィンテージスープボウルが、氷中航路に棲む「夜の住人」と人間を結ぶ旧式の保守装置だったと知る。王都を騒がせる告発新書、意図的に改変された事故記録、各地へ散らされた七客の器。十年前、警告を無視した運行によって事故が起き、その後の応急処置として、本来七地点へ分散されるはずの負荷がジオンニ一人へ集中させられていたのだ。

冬を前に北方の燃料は尽きようとしている。封鎖を続けても人々は困窮し、危険なまま再開すれば再び大事故になる。クイリーは「誰か一人を交換不能な部品にする仕組みは欠陥だ」と告げ、壊れた旧設備を元へ戻すのではなく、現代の魔導機関と七客を組み合わせた新しい保守方式を設計する。

夜の住人は敵ではなく、ずっと危険を知らせ続けていた隣人だった。夜明けまでに氷圧を逃がせなければ王都が崩れる極限の夜、クイリーは仲間たちと七つの圧力を制御しながら、地下へ意識を引き込まれたジオンニの手を握る。

「私はあなたと朝を迎えたい」

一人で夜を耐えてきた公爵と、壊れたものを一人で直そうとしてきた整備士。これは、同じ食卓につき、互いの意思と仕事を尊重しながら、新しい朝を作り直す二人の恋物語。
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