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魔法嘱託員

メルヘンってなんだよってなってから筆が進みませんでした。

暫くぶりですが、久々投稿します

『敵襲、敵襲! チームE(エコー)、敵性対象と接敵!』


 都庁入庁後、携帯と一緒に貸与された通信端末のインカム越しにHQ(管理部本部)からの怒声に似た叫びが聞こえてくる。


 残業のため、たまたま夜間まで都庁に残っていた都上慎也(つがみ しんや)は溜息を吐きながらデスクを立つと、先輩社員の中嶋に一礼をしつつ、小走りで上司のデスクへと向かった。


「こんな深夜にテロリズムかい、よほど暇なんだねぇ」


「言ってる場合っすか。今警備いないんすよ。くっそー、定時で上がってればなぁ」


 慎也は呪詛めいた文句をもごもごと呟きながら、上司のデスクを開く。彼がふと「普段デスクで踏ん反り返ってるだけなんだから、こういう時いてくれよ」と呟いたのを中嶋は聞き逃さなかったが、思うところがあったのかそれに何か返すことはなかった。


 慎也はデスクの引き出しに入っていた小さな鍵を取り出す。それは有事の際に使うための機材が入っている倉庫の鍵であった。上司承認が降りなければ決して開けられることのない棚である。


 基本的に管理者のデスクから勝手に鍵を取り出すという行為はセキュリティリスクの観点からも、コンプライアンス観点からも容認できるような行為ではない。


 ただ、それでも管理者本人が不在の際に、必要であればその鍵をデスクから取り出して使ってもいいと指示する上司は存在する。


 所謂「俺がいないときは勝手にやっておけ」というものだ。


 驚きなのはそれが2050年になってもまだ慣習として残っているという点だろうか。


 こうした点は昭和から元号をおよそ3つは過ぎ去った現在でも日本企業や日本の行政機関といったものが本質的に変化していないことの証左であったものの、残念ながらそれは従業員の意識レベルも似たようなもので、慎也のように「まぁそんなものか」と飲み込んでしまう人間が多いこともこの現状維持に拍車をかけていた。


「中嶋さん、何使います? 俺、折角なんでH&K(ヘッケラー&コッホ)のGR DMR67使いたいっす」


 そう言いながら、慎也は2044年にドイツの銃火器メーカーがリリースした警察機関向けの狙撃銃を取り出そうとしたが、中嶋はむっつりとした表情でそれを静止する。


 中嶋は令和の初頭に都庁に入庁したベテランであったが、長年の勤務からすっかりと日本的マインドに馴染み切り、かつてZ世代と呼ばれた個人主義を基調としたマインドなどすっかりと姿を消している様子である。


 そんな中嶋からすると、H&Kを「ヘッケラーアンドコック」と呼ばずに「ヘッケラーアンドコッホ」などとドイツ語呼びする慎也に、どことなくまだ新人特有の自我を感じていた。


 それは残業中で自分しかいないから、と中嶋は特に気にも止めなかったが、日中はやめてほしいというのが彼の正直な感想である。


 尤も、そこでアンドのことをウントと誰も指摘しないあたりはまだ日本の言語レベルの現状を物語っていた。


「慎也、長物はやめとき。テロリストは既に都庁に入り込んでる。屋内での戦闘時ではでかい銃は向かん」


 そう言うと中嶋は使い古された同メーカーのマシンピストルを取り出し、慎也に手渡した。


「やっぱでかい銃の方が弾がでかいじゃないですか。そっちの方が強いんんじゃないんですか」


「お前、FPSやってるだろ? 屋内でADSする(スコープ越しに覗く)か?」


「いや、大体は腰撃ちっすね……」


「だろ? お前も分かってると思うけど、それは近距離でスコープを覗いた時の視野の狭さや屋内でバレルの長い武器を取り回すことの怖さから来るんや」


 中嶋の言葉に思うことがあったのか、慎也は仏頂面で渡されたマシンピストルを眺めていた。


 その時、ふと二人が耳に装着するインカムに新たな無線が流れる。


『管理本部より全職員に通達。チームE(エコー)の全滅を確認した。敵性対象は現在階段を経由して13階を進んでいる。12階から18階を封鎖し、魔法嘱託員(ポッピンメルル)を投入する。全職員は該当エリアからの退避を実施せよ。19階より上階の職員は敵性対象の突破に備え、第二次戦闘配置のまま待機。繰り返す──』


 インカムからの連絡を受け、2人は顔を見合わせた。


「ま、アレが投入されるなら銃なんて特に要らへんやろ……」


「本当っすかねぇ……」


 中嶋のぼやくような声に、どこか震えがあることを慎也は悟った。


「ポッピンメルルって、そんなに怖いのか?」


 その言葉を胸に仕舞い、慎也はトイレと告げて廊下へと消えていった。

 

 

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