恋する金魚は愛で濁った水を啜る
最新エピソード掲載日:2026/05/19
「あなたはこの比率でいる時が、一番美しいわ」
母親が定めたミリ単位の『完璧な比率』と『見えないマス目』。
それが、箱入り娘として育てられた私のすべてだった。
交友関係も、着る服も、息の仕方さえも親の管理下に置かれた「濁り一つない無菌の水槽」。私は自分の意志を持たない、ただ美しく作られただけの無色透明な金魚だった。
しかし、大学入学という未知の海へ放り出された数日後。
新入生勧誘の暴力的なまでの人波にマス目を壊され、パニックで息を止めていた私を救い出したのは、微かな煙草の匂いを纏う「彼」だった。
「……息、止まってたよ」
親の与える滑らかで冷たい世界とは正反対の、熱を持った声と、見知らぬ匂い。
それが、私の無菌の水槽に、最初の一滴の「濁り」が落ちた瞬間だった。
彼は「君は自由だ」と甘い言葉を囁きながら、少しずつ私を彼色に染め上げていく。
親の支配から逃れ、初めて『自分の意志』を手に入れたと錯覚した私は、彼が注ぎ込む過剰で歪んだ愛を、生きる糧として飲み込んでいく。
けれど、それは決して自由などではなかった。
私はただ、飼い主と水槽を変えただけ。
彼が私を自分好みに「色揚げ」するための、ひどく甘くて、息苦しい泥のように濁った水。その猛毒を、私は「愛」だと信じて啜り続ける。
これは、透明だった金魚が完全に彼色に染まり、自ら濁った水に沈んでいくまでの大学4年間――1460日を1日たりとも欠かさずに克明に記録した、静かな狂気と依存の観察日記。
【本日の水質記録:濁度100%】
――もう、この濁った水の中でしか、私は息ができない。
母親が定めたミリ単位の『完璧な比率』と『見えないマス目』。
それが、箱入り娘として育てられた私のすべてだった。
交友関係も、着る服も、息の仕方さえも親の管理下に置かれた「濁り一つない無菌の水槽」。私は自分の意志を持たない、ただ美しく作られただけの無色透明な金魚だった。
しかし、大学入学という未知の海へ放り出された数日後。
新入生勧誘の暴力的なまでの人波にマス目を壊され、パニックで息を止めていた私を救い出したのは、微かな煙草の匂いを纏う「彼」だった。
「……息、止まってたよ」
親の与える滑らかで冷たい世界とは正反対の、熱を持った声と、見知らぬ匂い。
それが、私の無菌の水槽に、最初の一滴の「濁り」が落ちた瞬間だった。
彼は「君は自由だ」と甘い言葉を囁きながら、少しずつ私を彼色に染め上げていく。
親の支配から逃れ、初めて『自分の意志』を手に入れたと錯覚した私は、彼が注ぎ込む過剰で歪んだ愛を、生きる糧として飲み込んでいく。
けれど、それは決して自由などではなかった。
私はただ、飼い主と水槽を変えただけ。
彼が私を自分好みに「色揚げ」するための、ひどく甘くて、息苦しい泥のように濁った水。その猛毒を、私は「愛」だと信じて啜り続ける。
これは、透明だった金魚が完全に彼色に染まり、自ら濁った水に沈んでいくまでの大学4年間――1460日を1日たりとも欠かさずに克明に記録した、静かな狂気と依存の観察日記。
【本日の水質記録:濁度100%】
――もう、この濁った水の中でしか、私は息ができない。
無菌の箱と、見えないマス目
2026/05/05 04:39
【Day1】
2026/05/05 04:45
【Day2】
2026/05/05 21:38
【Day3】
2026/05/05 21:47
【Day4】腹話術の人形と、空っぽの履歴書
2026/05/05 22:10
【Day5】
2026/05/07 20:33
【Day6】優しい修復と、剥製の週末
2026/05/07 22:14
【Day7】印象派の牢獄と、決められた呼吸
2026/05/07 22:31
【Day8】
2026/05/08 02:22
【Day9】
2026/05/08 03:00
【Day10】
2026/05/14 02:03
【Day11】
2026/05/16 14:05
【Day12】
2026/05/16 15:00
【Day13】純白の拘束衣と、幻の煙
2026/05/19 21:36